From:堀口寿人
あなたがもし会社の管理職や経営者なら、きっと社員の自己肯定感を高めたいと思って、この記事にたどり着いたのだろう。
いや、もしかして自分自身の自己肯定感を高めたいと思っているのかもしれない。
いずれにしても、あなたの目線は正しい。というのも自己肯定感は、働く人には、とても重要なキーワードだからだ。
しかしよくよく考えてみると、自分を肯定するとはどういうことなのか?意味が漠然としていて分かるようで分からない。
そのような疑問を解消するため、この記事では、自己肯定感の意味や、構成要素などについて、丁寧に解説していく。
自己肯定感とは何か
研究者たちの定義
研究者たちの定義を紹介する前に、まず最初に断りを入れておく。何かと言うと、研究者たちの定義が一貫していないとうことだ。
よく似ているが、それぞれ微妙に違う。だから、あなたが「自己肯定感の意味ってなに?」となるのも無理はないわけだ。
そんな前置きをしつつ、研究者たちの定義する自己肯定感を見てみよう。ハッキリ言って、「こんなのがあるんだな」くらいで、サーっと読み飛ばしてもらっても構わない。
- 現在の自分を自分であると認める感覚
- 自分自身のあり方を肯定する気持ちであり、自分のことを好きである気持ち
- 自己に対して肯定的で、好ましく思うような態度や感情
- 「自分自身のことが好き(自己受容)」「自分自身を大切にしている(自己尊重)」「生れてきてよかった」を合わせたもの
- 自分自身のあり方を概して肯定する気持ち
- 自分のよさを肯定的に認める感情
- 「自分は大切な人間だ」「自分は生きている価値がある」「自分は必要な人間だ」という気持ち
- 自己の価値基準を元にした、よいもダメも含め自分は自分であって大丈夫という感覚
と、このように、自己肯定感の意味は、だいたいどれも似ているが、研究者によって微妙に違っている。では、辞書ではどう定義されているのだろうか?
辞書での意味
心理学の権威であるアメリカ心理学会が出している「APA心理学大辞典」を参考にしてみよう。こんな解説になっている。
自己肯定[self-affirmation]
- 自分自身の肯定的な部分を表現しようとする行動のことで、しばしば自分の中の価値や属性、何かの集団の一員であることなどを肯定的に主張すること
- 心理療法で、クライエントの自分自身に関する肯定的な語り、またはその構えのこと。しばしば、うつや否定的な思考、低い自尊心の治療の一環として、そして治療に欠かせないものとして、定期的に自己を肯定することが求められる。
- 課題遂行状況や競争的状況において、信頼でき、生き生きとした自分自身についての思考、およびポジティブな特性、能力、技術を促進する自分自身についての思考
ハッキリ言って、スッと入ってこない説明だ。これをシンプルに表現にすると、こんな感じになるだろう。
- 自分のポジティブな面を主張すること
- 自分自身にポジティブな言葉を投げかけること
- 何かやっているときに自分がうまく機能していることを認識すること
だいぶスッキリした。ただもう少し突き詰めて、極限までシンプルで実用的な意味に落とし込みたい。
そこで、独自に、自己肯定感の意味を考えてみよう。
要するに自己肯定感とは
自分を肯定するとは?
そもそも自己肯定感とは、読んで字の通り、自分を肯定する感覚だ。じゃあ、肯定するとはどういう意味か?それを突き詰めないから、意味がぶれてしまうわけだ。
肯定とは、シンプルに言うと、「よいと評価すること」だ。それ以上でも、それ以下でもない。
だから、肯定という言葉だけで考えると、そこには、「好きか嫌いか」「価値があるかないか」などは関係ない。もちろん、「自分をよいと評価すること」と「自分を好きであること」は関連しているだろう。でも厳密に考えると、それらは別物だ。
よいとは?
じゃあ、「よい」とは何かということだ。「よい」とは具体的には、次のようなポジティブな言葉で表現されるものだ。例えば、
幸せ、優秀、有能、優しい、豊か、明るい、献身的・・・
などなど。こういう風に自分を捉えられたなら「自分はよい」と評価したことになる。つまり、自己肯定感が高いということだ。
でも何を持って自分を「よい」と評価することになるのか?それは一言で言い表せない。例えば・・・
- 記憶力が高いから、自分はよい
- 毎日やるべきことをこなせているから、自分はよい
- 金持ちだから、自分はよい
- 少ないお金でもやりくりできるから、自分はよい
- 友人がいっぱいいるから、自分はよい
- 孤独を楽しめるから、自分はよい
- 一人で何でもできるから、自分はよい
- できないことを人に頼めるから、自分はよい
- 親に愛されたから、自分はよい
- 親に愛されなくても強く生きてこれたから、自分はよい
・・・・
など、何に対して、「自分はよい」と感じるかは、その人の価値観による。なので、これ以上は突き詰めることが難しい。要するに、理由はどうあれ、「自分はよい」と感じられれば自己肯定感が高いということだ。
そこで、私が自己肯定感を定義するとしたら、こうなる。
「自分はよい」と感じる度合い
今話してきたように、どんなことに対して「自分はよい」と感じられるかは分からないわけだが・・
一般的に「“これがあれば”自分はよいと感じやすい」というものがある。言わば自己肯定感の要素みたいなものだ。
もちろん、これも絶対的なものじゃない。今お話ししてきたように、どんなことに対して自分はよいと感じられるかは人それぞれだからだ。ただ一応、心理学の研究者が提唱しているものなので、参考として聞いてほしい。
自己肯定感の要素
自己受容
これは自分をあるがまま受け入れられているかどうかだ。例えば、
- 身長が高かろうが低かろうが
- 人より記憶力がよかろうが悪かろうが
- お金を持っていようが持っていなかろうが
- まわりから人気があろうがなかろうが
どっちでもOKと思える度合いだ。自分がどうであれ、「まあそれはそれでいいんじゃない?」と思える感覚のことだ。自分をあるがまま受け入れられているほど自己肯定感も高くなりやすい。
自己実現
これは目標や目的意識を持って、日常を送れているかどうかだ。人生に志向性があるかどうかという捉え方でもいいだろう。人生に志向性があるほど自己肯定感も高くなりやすい。
要するに「○○のために今日生きる」というものがどれくらいあるかだ。目標や目的意識は、一日の充実感や有意義感に強く関係している。
あなたも、自分がただ食うためだけに漫然と仕事をし、帰って何の目的もなくダラダラ過ごし・・・
という人生を送っているところをイメージして欲しい。そんな自分をよいとは思えないだろう。そんな人生に意味を感じられないからだ。
充実感
これは毎日充実していると感じられているかどうかだ。充実感が高いほど自己肯定感も高くなりやすい。
例えば、自分の持てる力をフルに発揮して世の中に貢献していたとしたら最高に充実感を感じるはずだ。
でも、自分の力を発揮できず、楽しさも感じられず、世の中に貢献している感覚もなかったら、充実感は感じられないだろう。
対人信頼
これは他人に対し心を開けるかどうかだ。他人にオープンマインドであるほど自己肯定感も高くなりやすい。
この反対が、心を閉ざしている状態、つまり他人に心を開きたいけど緊張や警戒して開けない状態だ。
もちろん、これは、「自分でやりたいことがあってそれに没頭したくて、一人でいる」こととは違う。自分のやりたいことに没頭するのは、他人に心閉ざすことではない。
対人主張
これは人に対して自分の意見をきちんと言えるかどうかだ。自分の思いをきちんと人に伝えられる人ほど自己肯定感も高くなりやすい。
これも何となくイメージできるだろう。自分の意見を言いたくても言えないとしたら、そんな自分をいいとはなかなか思いにくい。
もちろん、これも、「相手の立場や人間性を思いやって、あえて自分の意見を言わないでいること」とは違う。
ここで言っているのは、本当は、自分のためにも相手のためにも、自分の意見をきちんと伝えるべき時にも関わらず伝えられないことだ。
対人評価
これは人からの評価をどれくらい気にするかだ。人からの評価をあまり気にしない人ほど自己肯定感も高くなりやすい。
一つ注釈すると、人からどう見られているかを“推測する”だけなら問題はない。問題なのは、人からどう見られているかを推測して、その推測から自己評価を作り上げてしまうことだ。
ちょっと分かりにくいので、例えを挙げよう。例えば、あなたが汚れた服を着ていたとしよう。
そのことに対して、「きっとまわりの人は自分のことを“汚い服を着ている人”と思っているのだろう」と考えることまでは問題ない。
問題なのは、そこから、「ああやっぱり自分は汚い人間だ。自分はバカにされる存在なのだ。」と自己評価を作り上げていくことだ。
「人からどう見られているのか」を理解する力は、むしろ役立つ場合がある。特にセールスやマーケティングには必要な能力だろう。
でも、その理解を、自分を悪く評価することに使ってはいけない。
まとめ
自己肯定感とは、自分を肯定する感覚のことだ。
自分を肯定するとは、自分を「よい」と評価することだ。具体的には、自分を幸せ、優秀、有能、優しい、豊か、明るい、献身的のようにポジティブに捉えることだ。
何を持って自分を「よい」と評価するかは、その人の価値観によって違う。ただ一般的には、次の6つの要素が関係している。
- 自己受容:自分をあるがまま受け入れられているか
- 自己実現:目標や目的意識を持って、日常を送れているか
- 充実感:毎日充実していると感じられているか
- 対人信頼:他人に対し心を開けるか
- 対人主張:人に対して自分の意見をきちんと言えるか
- 対人評価:人からの評価をどれくらい気にするか