From:堀口寿人
海辺の町より
この記事では、習慣の意味について解説する。さらに、習慣は心理学的に脳科学的にどんなものかも合わせて解説する。
そうすることで、習慣という概念をより包括的に理解できるはずだ。
習慣は僕たちの人生にとっても、すごく大切なものなので、意味をしっかり理解して欲しいと思う。
まず最初に心理学辞典をもとに、習慣という言葉の正しい意味を探ってみよう。
1.習慣の意味
1-1.習慣(habit)
アメリカ心理学会が発行するAPA心理学大辞典によると、習慣はこう定義されている。
十分に学習した行動や自動化された行動系列のうち、比較的特定の状況で生じ、時間がたつことで運動性の反射となり、動機付けや認知の影響を受けなくなり、意識的な意図をほとんど、あるいはまったく伴わずに実行されるもの。
長々書かれているが、分解するとこんな感じだ。
- 習慣とは、十分な学習によって自動化された行動パターン
- そのパターンは特定の状況で生まれやすい
- そのパターンはほとんど無意識に生まれる
「特定の状況で生まれる」という部分がポイントだ。これは、新しい習慣を作る場合もとくに気にするポイントになる。これに関してはまた別の記事で解説する。
では、せっかくなので、関連した他の言葉の意味も見てみよう。
1-2.習慣強度(habit strength)
次は習慣強度という言葉。字面で何となく意味は推測できるかもしれない。解説はこうだ。
学習強度を反映するとされる仮説構成体で、強化数や強化量、刺激と反応の感覚、反応と強化の感覚によって変化する。[ハル(Clark L.Hull)により1943年に提案された。]
ハルというのは、心理学に大きなインパクトを与えた心理学の巨人の一人だ。
彼は、「ある行動に対して、報酬を与える」というのを繰り返すことで、その行動の習慣強度が強くなると考えたわけだ。
例えば、かごの中にレバーがあって、そのレバーを押すと餌が出てくる仕組みをつくる。そのかごの中にネズミを入れる。
すると、ネズミは最初はレバーの仕組みが分からないので、レバーを押す回数が少ないが、そのうちだんだんレバーを押す回数が増えていくという実験がある。
これはネズミだけじゃなくて、人間にも当てはまる現象だ。
ただ!
習慣強度というのは、実際に測れるものじゃなくて・・・あくまでハルが「おそらくそういうものがあるんじゃない!?」と考えたに過ぎない。だから、そういう考え方もあるんだなというくらいにしておこう。
最後にもう一つだけ。
1-3.習慣形成(habit formation)
習慣形成の意味はこう説明されている。
反復や条件付けを経ることで、人間以外の動物や人間の行動が、規則的で、ますます実行容易になっていく過程
これは、さっきの習慣強度の話にも関係するが、行動とそれに対する報酬のつながりが強くなるほど、その行動がますます出やすくなるということだ。
もっと俗な言い方をすると、行動をしてメリットがあると、その行動をますますしやすくなるということだ。
1-4.心理学論文の中の定義
これまで辞書の意味を見てきたが、心理学論文では次のように定義されている。
習慣は、ある状況への反応であり、自動的に繰り出される行動のパターン。その状況において、行動はくり返し過去と同じようになされる。
ご覧のように、心理学辞典の意味とほぼ同じだ。まあ、違っていたら困るわけだが。
ここで一つ補足。「行動のパターン」という部分だ。一般的に習慣と言うと、体の行動(例えば、散歩とかダイエットとか)をイメージしがちだ。
でも、実際は、話言葉から考え方に至るまで、僕たちが成すことは全て習慣に関係する。具体的には、行動には、次の3つが含まれることを、よく理解しておいてほしい。
- 体の行動・・・体の動かし方
- 口の行動・・・話し方
- 心の行動・・・考え方
付け加えておくと、心の行動が一番重要だ。というのも、心の行為が全ての行為に先立つからだ。
じゃあ次に、習慣が生まれるとき、僕たちの心や脳でどんなことが起こっているのかを見てみよう。
2.習慣化のしくみ
2-1.心理学の視点から見た習慣
まず、僕たちが何か新しい行動をすると、その状況と行動の間に記憶の連合が生まれる。
例えば、あなたが新しくオープンした雑貨屋さんに行ったとしよう。
すると、その雑貨屋さんの外観、内観、匂い、商品などの状況の記憶と、そこで自分がとった行動の記憶が結びつけられるわけだ。
こんな感じで、頭の中で「これとこれはセット」という風にグルーピングされる。
そして行動を繰り返すことでその記憶の結びつきは強化される。つまり習慣強度がどんどん強くなるというわけだ。
さらに、特定の習慣が強くなると、同じ状況で別の習慣が抑制されるという特徴もある。
例えば、よくあるのが、人から批判されたとき、いつも「自分は全否定されている」と感じる場合だ。
これは、「人からの批判=自分が全否定」というつながりができていると考えられる。言いかえれば、『人から批判されたとき「自分が全否定されている」と考える習慣』になっているということだ。
ここで、もし考え方を変えて、人から批判されたときに「自分の成長できるポイントを教えてくれた」と考えられるようになったとしよう。
その場合、『人から批判されたとき「自分の成長できるポイントを教えてくれた」と考える習慣』が身に付いたということだ。
と同時に、『人から批判されたとき「自分が全否定されている」と考える習慣』が抑制されたということになる。
こんな感じで、ある習慣と別の習慣は、歩行者信号の赤と青のように、相対する性質を持っている場合がある。
2-2.脳科学の視点から見た習慣
脳にはニューロンという神経細胞が数えきれないくらいある。その一つ一つに断片的な記憶が保存されていると考えて欲しい。
それぞれのニューロンは他の関係あるニューロンとのつながりを持っている。そうやってニューロン同士のネットワークを作っているわけだ。
ネットワークを作っているということは、あるニューロンが活性化するとき、それに関連したニューロンも次々に活性化することになる。この一連のパターンが心の働きを決めているわけだ。
例えば、「蛇を見て怖い」と思う時、「緑」「長いもの」「恐怖感情」「湿地」「クネクネした動き」みたいな複数の情報が、それぞれのニューロンに保存されていて、それらが複雑なネットワークでつながっているとイメージして欲しい。
このとき、どれか一つのニューロンが活性化すると、それに伴って関係している一連のネットワークが全体的に活性化するというわけだ。
そして面白い事に、ニューロンは一度活性化すると、より敏感になって、次はもっと活性化しやすい状態になる。この状態は、数時間~数日続く。その期間の間だったら、もっと弱い刺激でも、そのニューロンは簡単に活性化する。
こんな感じで一連の記憶が意識に上りやすくなるわけだ。
さらに、ニューロン同士のつながりは、いつも変化している。つながりが強くなったり、弱くなったり、切れたり、別のニューロンとつながったり、ということを頻繁に繰り返しているわけだ。
つまり、脳科学的に見ると、何度も頻繁に活性化されて、ニューロン同士のつながりがガチガチに強くなったものが習慣だ。
2-3.習慣化のしくみまとめ
2つの視点から習慣を説明したが、要するにこれは同じことを言っているわけだ。
というのは、僕たちの脳には、無数の小さな引き出しが合って、そこに記憶の断片が一つずつ収納されている形になっている。そして、引き出し同士が色んなネットワークでつながっているわけだ。
例えば、「ヘビ」というイメージを記憶から取り出すとき、僕たちは、ネットワークでつながった色んな引き出しから記憶の断片を取り出してヘビのイメージを合成させる。
だから、一つの大きな引き出しに「ヘビ」という情報がドンと入っているわけじゃない。繰り返すが、記憶は小さな部品の形でバラバラになって、無数の小さな引き出しに収納されている。
しかもネットワークは、常に変化している。あるネットワークは強くなり、あるネットワークは弱くなり、あるネットワークは消滅する。
つまり、習慣化されるとき、そのネットワークが太く強くなるということだ。そうすることで、そのネットワークはセットで活性化されやすくなる。
3.まとめ
習慣とは、「ある状況への反応であり、自動的に繰り出される行動のパターン」という意味だ。
習慣化されるとき、人の頭の中では、その時の状況の記憶と行動の記憶とのネットワークが強くなる。そうすることで、よりセットで活性化されやすくなる。