From:堀口寿人
え?何で?
僕は思った。
僕たちは子供のころから、「集中しなさい」と教わってきた。
だから、ことあるごとに集中しようとしてきたし、集中することでそれなりの成果もあった。よく分からないなりに「集中力は人生に必須の能力」だと学んできたわけだ。
それなのに・・・
パチパチ。集中力に関する論文を調べてみる。
えーっと、集中力を上げる方法は・・・っと。あれ?全然見つからない。
そう心理学研究がスタートして100年以上たっているけど、集中力に関して、まだ科学的に分かっていないことが多いのだ。
そういうわけで、仏教と僕の経験則に基づいて集中力が出ない原因を探ってみようと思う。もし、あなたに集中力がないとしたら、4つの原因が考えられる
原因1.集中力について誤解しているから
まず、世の多くの人が集中力がないことに困っているのは、そもそも集中力に関して、誤解しているからだ。
音楽では集中力は上がらない
例えば、よくあるのが「集中力が上がる音楽」を探しているケース。これはそもそもの考え方が間違っている。
「集中する」ということは何か一つに絞り込むということだ。
ちょっと前。季節はちょうど受験シーズン。僕は気分転換に図書館の学習室へ行った。
そこには、受験勉強に頑張る学生がズラリ。一見みんな一生懸命勉強しているように見える。
でも、僕には妙に思えることがあった。
学生の半数以上がイヤホンをしているのだ。いったい何を聴いているのだろう?英語のリスニングでもしているのだろうか?それにしては、あまりに人数が多い。イヤホンの元を見てみると、どうやらiPodやiPhoneにつながっているらしい。
僕は不思議だった。「この子たちは何をしたいのだろう?音楽を聴きたいのか?勉強をしたいのか?」
繰り返すが、「集中力が上がる音楽」というのは「お腹が減る食べ物」というくらい不自然なことなのだ。
それはなぜか?今から理由を話そう。
心とは?
集中力について理解するためには、まず心の基本的な仕組みを知っておく必要がある。
今回のテーマは「集中力がない原因」なので、心についてはサラッと行くが・・・
心とは、「対象を知る働き」のことを言う。“対象”というのは、「五感から入って来る情報+記憶」のことだ。心はその対象に関する情報を受け取り、対象が何かを解釈する。
心は直列
さらに、心とは生まれては消えるエネルギーの連続体だと考えて欲しい。
例えるなら、超高速で点滅している電球をイメージして欲しい。一つの光がついては消えてを繰り返しているのを想像できるだろうか?こういうやつだ(↓)
もちろん心は光などの物質ではないので、眼には見えないが。まあ、要するにそういったエネルギーが超高速で点滅しているとイメージして欲しい。そして、そのときの一つ一つのエネルギーが対象を知る働きをしているわけだ。
そして大事なことだが、心は複数同時に点滅することはない。さっきの電球の例で言うと、一人一つの電球しか割り当てられていないということだ。あなたにも一つ。僕にも一つ。
その一つの電球が超高速で点滅しているわけだ。これは何を意味するかというと・・・
僕たちが、その一瞬で認識できることはただ一つということだ。これは大事なポイント。
詳しくは、前に書いた記事「集中力とは?集中力の意味を例え話で解説」の解説を見て欲しい。
つまり・・・
一度に複数の対象に触れさせると、心はあれこれ飛び交うことになる。
- 1つ目の心はAという対象を知ろうとし、
- 2つ目の心はBという対象を知ろうとし、
- 3つ目の心はCという対象を知ろうとし、
というように。この状態が集中力がない状態だ。だから、「音楽では集中力は上がらない」という意味も理解いただけるだろう。
原因2.楽して集中力を得たいと考えているから
“楽して”というのは、“怠けて”という意味だ。集中力はご想像通り、楽して手に入るものじゃない。これは、1番の「集中力についての誤解」にも関係している。
集中力とは
だいたいお気づきだと思うが、集中力は外から取り入れるタイプのものじゃない。内側から鍛えていくタイプのものだ。まさしく筋トレするのと同じ感覚だ。
確かに、ボディビルダーの人は鶏肉を食べたり、プロテインを飲んだりしている。だから「外からの物で体をつくっているじゃないか!?」という反論もあるかもしれない。
確かにその通りだ。ただ、いくら鶏肉を食べてもプロテインを飲んでも、肝心の“トレーニング”をしなければ筋肉はつかない。
だから、時には、サプリを飲んだり、食べ物や飲み物に気を付けることは、集中力にとって必要なこともあるかもしれない。でも、「集中力を高めよう」と努力しなければ、集中力は高まることはない。
集中力を高める方法については、また別で解説する。
もし今すぐ集中力が欲しいなら・・・
「訓練もするけど今すぐ集中力が欲しいのだ!」という場合は、まずは集中できる環境づくりが必要だ。
ここで考えてみて欲しい。どんな環境が必要だろうか?これまでの内容を理解できていれば、だいたい想像できるだろう。
そう。「必要なもの以外全く情報が入らない環境」を作るわけだ。
もし、あなたが紙に何か書くタイプの仕事をしようと考えているなら、紙・ペン・資料だけがある環境。物音や人の声や娯楽用品などが全くない環境。そういった環境が望ましだろう。とにかく不要な刺激を徹底的に排除する必要がある。
それは、もしかして、これまでの環境を変えることを意味するかもしれない。そういう意味では、環境づくりにも努力が必要なわけだ。
つまり・・・
環境を変えるにしても、集中力を地道に鍛えるにしても、一定の努力が必要だ。集中力は、何か食べたら、何か聞いたら、何か嗅いだら、それだけで高まるものじゃないわけだ。
音楽を聴けば、サプリを食べれば、アロマを嗅げば・・・という考えは怠けだ。そういう考えでは集中力は得られない。
原因3.ネガティブな集中力に頼っているから
集中力には2種類ある。ネガティブな集中力とポジティブな集中力だ。詳しくは前に書いた記事「集中力とは?集中力の意味を例え話で解説」で説明しているので、ここでは要点だけお話する。
ネガティブな集中力は一時的
まず、「ネガティブな集中力って何?」ってお話だ。一言で言うと、感情的な集中力だ。
例えば、また受験生に登場してもらおう。仮にA君とする。
A君は、勉強をやる気がしない。だから机に向かうも、つい漫画に気を取られたり、ベッドで横になったりしてしまう。
そんなときに、トントントン・・・・
階段を上って来る足音。A君の母親だ。母はA君のために差し入れを持ってきた。
母は言う。「Aがんばってるね!これ差し入れ。応援してるからね^^」
それを聞いたA君は「がんばろう」と奮い立つ。勢いよく数学の問題集を開く。「さあ、バリバリやるぞ!」
しかし、30分後・・・
「ああ、ダリいー」とベッドに横になっているA君が。
何となくこんなシーン想像できないだろうか?僕も過去にこれに似た状況があったので、想像しやすいと思ったのだが・・。
ともあれ、これが一時的な感情で生まれる集中力の例だ。
あなたも体験上、理解されていると思うが、感情は長続きしない。そして移ろいやすい。なので、そんな感情をベースに集中するのは、グニャグニャの泥の上に家を建てるようなものだ。サッと崩れる。
これがネガティブな集中力の特徴だ。ついでなので、ポジティブな集中力についてもお話しておこう。
ポジティブな集中力は長続き
ポジティブな集中力とは、理性に基づいた集中力だ。
さっきのA君の例で言うと、例えば、A君自身が「勉強が必要」と理解して勉強に集中するケースだ。
A君自身が、勉強が必要と分かっていれば、後はたんたんと続けるだろう。
感情的な衝動の力を借りずに、自分の中の理性に従って勉強するとき、取り組んでいるもの自体が楽しくなるという特徴がある。
いわゆる“没頭する”というやつだ。心理学的には“フロー状態”とも言ったりする。
これは、目の前の課題に取り組む中で、分からないものが分かる過程で生まれる喜びがベースにある。
まとめると、ポジティブな集中によって喜びが生まれ、知恵(分からないものが分かるようになること)が促進されるということだ。
原因4.集中するだけの動機がないから
最後は、集中するだけの動機がないことだ。これは集中力が出ない原因として、とても重大だ。
例えば、ある中学3年生のA君がいたとしよう。彼は将来、大工になりたいと思っている。
できれば、本人としては、中学を卒業したら、すぐに大工の見習いになるか、大工の専門学校に行きたいと思っている。
でも、彼の両親は、それに反対だ。両親は「若いうちによりよい教育を受けて欲しい」という思いが強く、彼に進学校へ行くように進める。
A君は悩む。両親が言うことにも一理あるように感じる。でも、自分の気持も大切にしたい。これまで両親の言う通りにしてきたし、両親に逆らうのに不安も感じる。
受検も迫っている。早く決断しないといけない。
そこで、しぶしぶA君は、自分の思いを押し殺し、進学校の受験を決断する。もちろんA君にとっては望まぬ受験。
次の日から進学校受験に向けてA君の受験勉強が始まる。はたして、A君は受験勉強に集中できるだろうか?
その通り!できない。
なぜなら、A君には集中して受験勉強に取り組む動機が弱いからだ。葛藤があるからだ。むしろ本当は大工の修行をしたいからだ。
余談だが・・・
僕は以前、しばらく中高生の家庭教師をしていたことがある。
中には、びっくりするくらい成績がのびる子もいたが、たいていの生徒は成績は横ばいだった。僕は不思議だった。同じように教えているのに??
よくよく観察してみると、成績がのびない子は、勉強していなかったのだ。単純な話だった。そりゃ伸びない。
じゃあなぜ勉強しないのか?これも単純な話で、やる気が出ないからだ。じゃあ、何でやる気が出ないのか?これも簡単。やる気を出すだけの動機がないからだ。
たいてい家庭教師を依頼する家庭というのは親が熱心な場合が多い。子供が望んで家庭教師を呼んでいるケースはほとんどない。
だから子供にはやる気を出す動機がない。当然集中力も生まれない。全部関連しているわけだ。
こんな感じで、集中力がない原因として動機はとても重要な要素になる。
まとめ
自分に集中力がないと感じたとしたら、次の4つの原因を探ってみることをおススメする。
- 集中力について誤解しているから
- 楽して集中力を得たいと考えているから
- ネガティブな集中力に頼っているから
- 集中するだけの動機がないから
この4つについて、自分を冷静に振り返ってみること。そうすることで、自分に集中力がない原因に気づくことができる。
ちなみに、集中力が全くない人はいない。それに、集中力の高さは年齢、時期、環境、訓練など色んな条件によって変わる。
だから、まず自己分析によって、自分を知ることから始めよう。