近年、ビジネスの現場で「エンゲージメント」という言葉をよく耳にするようになりました。
しかし、その意味や重要性を正しく理解している経営者は意外と少ないのが現状です。
激動の時代を生き抜くためには、エンゲージメントの本質を掴み、組織に浸透させることが不可欠です。
本記事では、エンゲージメントの基礎から、その向上策までを徹底的に解説します。
1. エンゲージメントとは?〜意味と重要性〜
「エンゲージメント」という言葉、ここ数年でよく聞くようになりましたよね?
でも、正直なところ、「エンゲージメントって、結局どういう意味なんだろう?」と思いませんか?
実は、エンゲージメントには明確な定義があります。それは、
「社員が会社や仕事に対して自発的にコミットし、情熱とやりがいを持って働いている状態」のこと。
つまり、エンゲージメントが高い社員は、ただ与えられた仕事をこなすだけでなく、自ら考え、行動し、会社の成長に貢献しようとするのです。
ここであなたに質問です。
あなたの会社の社員は、エンゲージメントが高いと言えますか?自信を持って「YES!」と答えられるでしょうか?
もし答えられないとしたら、それは会社の将来にとって大きなリスクを抱えているのと同じなのです。
なぜなら、エンゲージメントの高さは、企業の業績と直結しているからです。
ギャラップ社の調査によると、エンゲージメントの高い社員がいる企業は、離職率が低く、生産性が高く、収益性も高いことが分かっています(参考文献:State of the American Workplace, Gallup)。逆に言えば、エンゲージメントが低い企業は、優秀な人材が定着せず、イノベーションも生まれにくいのです。
さて、ここまで読んで、「うちの会社も、エンゲージメントを高めなきゃ!」と危機感を持たれたのではないでしょうか?
その危機感は正しいです。というのも、エンゲージメントが下がると、色んな深刻な問題が起きるからです。
2.エンゲージメント不足が問題なワケ
あなたは、「うちの会社エンゲージメント低いな・・」と感じたかもしれません。
でも、それはあなたの会社だけの問題じゃないんですね。実際、多くの日本企業は「エンゲージメント不足」に陥っているのが現状です。
国際的な調査会社であるAON Hewittの調査によると、日本企業の社員エンゲージメント指数は、先進国の中でも最低レベル。実に6割以上の社員が「意欲が低い」「やる気が出ない」と感じているそうです(参考文献:2017 Trends in Global Employee Engagement, AON Hewitt)。
えっ、6割? そんなにいるの?と思うかもしれませんが、そんなにいるんです。
このようなエンゲージメント不足の状態が続くと、どんな問題が起きるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
(1)生産性の低下
エンゲージメントの低い社員は、自発的に働かないので、常に生産性がマイナスになります。
例えば、10人のうち6人がエンゲージメント不足だとすると、残りの4人が頑張って働いても、会社全体の生産性はなかなか上がらないのです。これでは、競合他社に太刀打ちできませんね。
(2)イノベーションの不足
エンゲージメントの低い社員からは、新しいアイデアは生まれません。「前例踏襲」「マニュアル通り」の仕事しかしないので、イノベーティブな製品やサービスを生み出すことができないのです。
ライバル企業に次々と新しいものを出されたら、ジリジリと市場シェアを奪われていくでしょう。
(3)優秀な人材の流出
エンゲージメントの高い優秀な社員は、やりがいのない環境にがまんできません。
「このままじゃ、自分の成長につながらない」と早々に見切りを付け、活躍の場を求めて転職してしまうのです。人材が流出することで、組織力はますます低下の一途をたどります。
さあ、ここまで読んで、「ヤバい、うちの会社もエンゲージメント不足かも……」と身に覚えのある方も多いのではないでしょうか。とはいえ、エンゲージメント不足を解消するには、まずその原因をつきとめる必要がありますよね。
次の章では、エンゲージメント不足を招く3つの原因について解説します。自社に当てはまる原因がないか、ぜひチェックしてみてください。
3. エンゲージメント不足を招く3つの原因
さて、ここからはエンゲージメント不足に陥る原因について掘り下げていきますよ。ありきたりな原因は避けて、意外な角度からの考察にしてみました。ぜひ最後までお付き合いください。
(1)ビジョンの欠如
あなたは、ビジョンと聞いて、ハッキリと明快に社員たちにビジョンを示せますか?
・・・
何とも言えない空気になりましたね。もし、示せないとしたら、それはビジョンがあいまいだということです。
そして、あいまいなビジョンでは、社員のエンゲージメントは高まりません。
「会社がどこを目指しているのかわからないのに、頑張れと言われても……」という思いが強くなるばかりです。
社員に「自分は会社にとって必要な存在なんだ」と実感してもらうには、ビジョンと社員一人ひとりの仕事との関係性を、具体的に、わかりやすく示すことが大切なのです。
例えば、ある食品メーカーでは、「世界中の人々に安全でおいしい食を届ける」というビジョンを掲げています。
- 品質管理部門の社員には「あなたの仕事は、お客様に安心を提供するために欠かせない」と伝え、
- 営業部門の社員には「あなたの仕事は、世界中に笑顔を広げるために欠かせない」と伝えているとのこと。
ビジョンと仕事の結びつきを、職種に合わせて説明しているわけです。
(2)上司との信頼関係の欠如
上司との人間関係は、社員のエンゲージメントに大きく影響します。部下は、上司を信頼し、尊敬できるからこそ、仕事に対するやる気が生まれるものです。
ところが、ハーバード・ビジネス・レビューの調査によると、日本の上司の55%は部下から信頼されていないことが明らかになりました(参考文献:Why Trust Motivates Employees More than Pay, Harvard Business Review)。 これは、アメリカの23%、中国の35%と比べても突出して高い数字です。
部下から信頼されない上司とは、例えばこんな人たちです。
- 部下の話に耳を傾けず、一方的に指示ばかりする
- 失敗を責めるばかりで、成功はほめない
- 公私のけじめがなく、部下にプライベートな用事を頼む
こんな上司のもとで、部下がイキイキと働けるわけがありませんよね?
上司と部下の信頼関係を築くには、部下の話にとにかく耳を傾け、ほめることを習慣づけ、プライベートと仕事をキッチリ分けることが大切です。
(3)成長機会の不足
「うちの会社は人材育成に力を入れています!」と胸を張る経営者がいます。
でも、現場の社員に「会社は自分の成長を応援してくれていると感じるか」と聞いてみると、意外と「NO」と答える人が多いんですよね。
リクルートワークス研究所の調査では、「会社の人材育成に不満がある」と感じている社員は全体の実に63.4%にも上ることがわかっています(参考文献:日本の人材育成の現状と課題, リクルートワークス研究所)。
会社が提供する研修やOJTが、社員のニーズとマッチしていないのです。
この問題を解決するには、一律の研修を行うのではなく、一人ひとりの強みや関心に合わせて成長の機会を提供することが肝心です。
例えば、IT企業のサイボウズでは、社員が自分で学びたいテーマを選び、予算を申請できる「セルフ研修制度」を設けています。
プログラミングを学びたい人もいれば、語学を学びたい人もいる。それぞれの関心に合わせた学びを後押しすることで、社員の成長意欲を高めているのです。
いかがでしょうか?ここまで解説した3つの原因、自社に心当たりはありましたか?
1つでも該当すれば、それが社員のエンゲージメント不足につながっている可能性が高いです。 裏を返せば、これらの原因を取り除くことで、一気にエンゲージメントは高まるということ。
それでは次の章では、エンゲージメントが高まると、会社にどんな変化が起きるのかを見ていきましょう。
4. エンゲージメントを高めるとこんなメリット
さて、ここまでで、エンゲージメント不足の恐ろしさと、その原因について理解を深めていただけたと思います。
それでは、エンゲージメントを高めたら、会社はどう変わるのでしょうか?
(1)生産性が向上する
前章でも触れたように、エンゲージメントの低い社員は、マイナスの生産性しか生みません。しかし、エンゲージメントが高まると、社員は自発的に仕事に取り組むようになるので、生産性は一気に向上します。
ある大手自動車メーカーでは、エンゲージメント向上に力を入れた結果、一人当たりの生産台数が2.5倍になったそうです。
マニュアル通りの仕事ではなく、一人ひとりが工夫を凝らして働くようになったからこそ、実現できた数字ですね。あなたの会社でも、同じような効果が期待できるはずです。
(2)イノベーションが生まれる
エンゲージメントが高い社員は、常に「もっといい方法はないか」と考えています。前例にとらわれず、自由な発想で仕事に臨むので、画期的なアイデアが生まれやすいのです。
例えば、あるスーパーマーケットでは、レジ担当の社員が「お客様の待ち時間を減らしたい」と自発的に提案し、レジ前にセルフ袋詰めコーナーを設置。
レジ作業が効率化され、お客様の満足度も高まったそうです。ボトムアップ型のイノベーションは、エンゲージメントの高い社員がいてこそ生まれるのです。
(3)優秀な人材が定着する
優秀な人材は、自分の力を存分に発揮できる環境を求めています。エンゲージメントの高い職場は、まさに優秀な人材にとって理想の環境。仕事にやりがいを感じられるので、簡単には辞めようと思わないのです。
グーグル社の調査では、エンゲージメントの高いチームは、離職率が最大で50%も低くなることがわかっています。
優秀な人材の定着は、新たな優秀な人材を引き寄せることにもつながります。「あの会社で働きたい!」と思わせるような、魅力的な職場づくりができるわけですね。
(4)企業業績が向上する
当然ですが、生産性の向上、イノベーションの創出、優秀な人材の定着は、企業業績の向上につながります。
エンゲージメントが高い企業は、低い企業に比べて、収益性が最大21%も高いことが明らかになっているのです(参考文献:2017 Trends in Global Employee Engagement, AON Hewitt)。
つまり、エンゲージメント向上は、「社員を大切にするため」というだけでなく、「利益を生み出すため」の施策でもあるのです。
社員の幸せと、会社の業績向上が同時に実現できる、まさに一石二鳥の取り組みだと言えますね。
どうですか?
エンゲージメントを高めると、会社が驚くほどポジティブに変わることがおわかりいただけたでしょうか?
でも、「エンゲージメントを高めたいけど、何からすれば……」と思いますよね?
ご安心ください。次の章では、誰でも実践できる具体的なエンゲージメント向上策をご紹介します。
5. 誰でもできる!エンゲージメント向上の具体策5選
ここからは、シンプルかつ実践的なエンゲージメント向上策を5つご紹介します。
難しいことは一切ありませんので、「うちの会社でもすぐにできそう!」と思えるアイデアを見つけてくださいね。
(1)1 on 1 ミーティングを実施する
1 on 1ミーティングとは、上司と部下が1対1で定期的に対話する場のこと。
部下の仕事の悩みを聞いたり、キャリアについて話し合ったりします。普段の業務では話せないような本音を引き出すことで、部下との信頼関係を築くことができるのです。
対話のポイントは、上司が部下の話を丁寧に聴くこと。解決策を即座に提示するのではなく、悩みに共感し、一緒に考える姿勢が大切です。
また、月1回1時間程度の頻度で実施するのが理想的。忙しい中でも、しっかりと時間を確保しましょう。
(2)部下の成果を認める「ほめカード」を送る
部下の頑張りを認めることは、エンゲージメント向上に欠かせません。そのための具体策が「ほめカード」の活用です。
上司が部下の良い行動を見つけたら、専用の用紙やメールに書いて送るのです。
ほめるときのコツは、抽象的な表現を避けること。「いつも頑張ってるね」では効果が薄いです。例えば、「○○さんのおかげで、納期に間に合いました。提案書の内容が素晴らしかったですね」など、具体的な行動や成果を褒めるようにしましょう。
ほめカードをもらった部下は、自分の存在価値を実感できます。「自分は認められている」と感じることで、仕事へのモチベーションが高まるのです。あなたも、習慣づけてみてくださいね。
(3)「手挙げ方式」の新規事業を立ち上げる
「手挙げ方式」とは、新規事業のアイデアを社内で公募し、やりたい人に手を挙げてもらう仕組みのこと。
通常の業務とは別に、自分の興味関心に合った仕事にチャレンジできるので、社員のエンゲージメントが高まります。
実際に、ある大手メーカーでは、手挙げ方式の新規事業が次々と成功を収めています。
例えば、「毎日の食事をもっと楽しくしたい」という社員の想いから生まれた健康弁当宅配サービスは、わずか1年で黒字化したそうです。
手挙げ方式のポイントは、参加者を選抜するのではなく、希望者全員に門戸を開くこと。
失敗を恐れずチャレンジできる環境をつくることで、社員のアイデアを最大限に引き出せます。中小企業でも十分に実践できる施策ですので、ぜひ検討してみてください。
(4)「パーパス」を社員と共に策定する
パーパスとは、企業の存在意義や目的のこと。経営理念やビジョンとも言い換えられます。前章でも触れたように、社員がパーパスに共感できないと、エンゲージメントは生まれません。
多くの企業では、経営陣だけでパーパスを策定していますが、それでは社員に浸透しにくいのです。
そこで、社員を巻き込んでパーパスを策定するのがおすすめです。経営陣と社員が対話を重ねながら、「私たちはなぜこの会社で働いているのか」を言語化していくのです。
例えば、あるIT企業では、全社員参加のワークショップを実施しました。そこで「一人でも多くの人に、テクノロジーのチカラを届けたい」というパーパスを策定しました。
経営陣の思いと、社員の想いが融合した、まさに全社一丸となれるパーパスだったのです。
(5)「1年で辞めていい制度」を導入する
最後に、思い切った施策をご紹介します。「1年で辞めていい制度」です。これは入社後1年間は、社員がいつでも辞められる制度です。
「この会社で働き続けたい」と思ってもらえる会社づくりを進めるための、ある意味社員ファーストな制度なのです。
新入社員は、「辞めてもいい」と言われることで、意外にリラックスして仕事に臨めます。一方、会社側は、「辞められたくない」と本気で社員と向き合うようになります。
社員の適性を見極め、納得のいく仕事を任せられているか、常に意識するわけですね。
この制度を取り入れているIT企業の社長は、「うちの会社は、この1年で5割近い社員が辞めていきます。その反面、残った社員は会社に対する愛着が強い。結果的に、定着率は高いんですよ」と話していました。
これは、ビジョナリーカンパニー2でも、「偉大な企業」の条件として紹介されていました
さて、5つの具体策はご理解いただけましたか?
「うちの会社でもできそう!」と思えた方策があれば、ぜひ実践してみてください。そして、社員との対話を重ねながら、自社に合ったエンゲージメント向上策を見つけていってくださいね。
まとめ
今回は、エンゲージメントについて、その意味から具体的な向上策まで、幅広くお伝えしてきました。
エンゲージメントとは、「社員が会社や仕事に対して自発的にコミットし、情熱とやりがいを持って働いている状態」のこと。
多くの日本企業がエンゲージメント不足に悩まされていますが、その原因は、「ビジョンの欠如」「上司との信頼関係の欠如」「成長機会の不足」の3つにあることがわかりました。
一方、エンゲージメントを高められれば、生産性の向上、イノベーションの創出、優秀な人材の定着など、会社は劇的に変わります。あなたには、ぜひエンゲージメント向上に本気で取り組んでいただきたいのです。
具体的な方策としては、「1 on 1 ミーティング」「ほめカード」「手挙げ方式の新規事業」「パーパスの共創」「1年で辞めていい制度」の5つをご紹介しました。
いずれも、特別なことは何もありません。大切なのは、社員の声に耳を傾け、社員を大切にする組織風土をつくっていくこと。一人ひとりに寄り添う経営を心がけることが、エンゲージメント向上の近道なのです。
最後になりますが、エンゲージメントの高い組織は、社員にとって「働きがいのある会社」であると同時に、経営者にとっても「業績の上がる会社」なのです。社員と会社が Win-Win の関係を結べるのが、エンゲージメント経営の魅力だと言えるでしょう。
それでは、理想の会社を目指す一歩を、今日から一緒に踏み出していきましょう!