From:堀口寿人
自尊心に目をつけたあなたの視点は正しい。
ハッキリ言うが、自尊心はとても重要な概念だ。
というのも、自尊心は、うつ、不安、人間関係、ものの考え方、目標達成などあらゆるものと関係しているからだ。
世の中には、たくさんの心理療法が存在している。例えば、認知行動療法、精神分析療法、来談者中心療法など、細かく書き出せばまだまだある。
でも結局はどの心理療法も「最終目標は、クライエントの自尊心を高めることだ」とすら言われている(医者が使う診断マニュアルにそう書いてある)。
そんなわけで、あなたには自尊心というものがどういうものか正しく理解して欲しいと思う。
ちなみに私は自尊心の専門家でもあるので、そのような専門的視点も交えながら、自尊心を色んな視点から、できるだけ分かりやすく解説していく。
自尊心とは何か
辞書的な定義
まず自尊心の定義について、辞書的な意味を確認しておこう。アメリカ心理学会のAPA心理学大辞典によると、自尊心は次のように定義されている。
自分の自己概念がどれくらい肯定的に知覚されているか、その特性や質や程度のこと。自尊感情ともいう。
また、この辞典では、自尊心は、次のようなものを含んでいると解説されている。
- 身体の自己イメージ
- 達成できる感覚、有能感
- 価値感
- 成功感
- 自分に対する他者の反応や評価
この説明から、自尊心は単一のものではなくて、かなり色んな要素から構成されていることが分かる。
ちなみに、辞典にも書かれているように、自尊心は、自尊感情とも言う。というより、もともと自尊心も自尊感情も、self-esteem(セルフエスティーム)を和訳したものだ。
だから、自尊心、自尊感情、セルフエスティームは全部同じものを指している。そんなわけで、ここからは一般的な言葉である“自尊心”という表現で統一する。
さて、辞書的な意味を確認してきたが、要するに一言で言うとどういう意味なのか?
要するに、こういう意味
自尊心とは、「自分をどれだけポジティブに評価しているか」ということだ。
一言に、ポジティブと言っても、
能力が高い、カッコいい、賢い、幸せ、明るい、仕事が早い、地位が高い、人気者、人付き合いがいい・・・
など、色んなポジティブがある。いずれにしても、自分をポジティブに評価する度合いが高い人ほど“自尊心が高い”ということになる。
何となく、意味はスッキリしたと思う。ただ、まだぼんやりした感じがあるので、次はもう少し具体的に自尊心のしくみをひも解いていこう。
自尊心のしくみ
そもそも、私たちの脳では、色んなタイプの情報が複雑にネットワークを構成している。
例えば、バナナという概念には、“黄色”という色情報、“三日月形”という形情報、“甘い”という味情報などが、紐づいている。
だから、“黄色”という色を見ただけで、バナナを連想することもあるし、“三日月形”をした形のものを見ただけで、バナナを連想することもある。
このしくみは、“自分”という概念についても言える。具体的には、“自分”という概念について次のような複数の次元の情報が紐づいている。
- 自分に関する事実情報
- 価値感(重みづけ)
- 評価(よい、悪い)
- 感情(喜び、怒りなど)
例えば、Aさんは、まわりの人より背が高いとしよう。この場合、「背が高い」というのは事実情報だ。
その事実情報をどれくらい重要と思うかが、価値感(重みづけ)の次元だ。
背が高いか低いかが、Aさんにとってスゴく重要なことなら、重みづけは重いことになる。でも、背が高いか低いかが、Aさんにとってどうでもいいことなら、重みづけは軽い。
そして事実情報をどう評価するのかが評価の次元だ。今回の例で言うと、「背が高い」という事実情報を、よいと評価するか、悪いと評価するかということになる。
さらに、評価の内容に従って、色んな感情が生まれる。たいてい、よいと評価すれば、喜び、安心などのポジティブ感情が出るだろう。悪いと評価すれば、怒り、くやしさ、劣等感などのネガティブ感情が出るはずだ。
ここで、ポジティブな感情が出た状態を自尊心が高い、ネガティブな感情が出た状態を自尊心が低いと言う。
要するに、「感情」が自尊心(自尊感情)の本体で、その大きさを決めているのが「価値感」、その方向を決めているのが「評価」というわけだ。
このことをふまえて、Aさんの例で具体的に考えてみよう。一例を挙げると、こんな感じのネットワークが考えられる。
- 事実情報:Aさんは背が高い
- 価値感(重みづけ):背が高いか低いかは、Aさんにとってとても重要
- 評価(よい、悪い):背が高いことはよいことだ
- 感情(喜び、怒りなど):大きい喜びを感じる(自尊心が高い)
さて、これでかなり具体的に自尊心のことが分かったはずだ。でも、まだこれで終わりじゃない。自尊心はもっと奥が深い。
というのは、自尊心には、意識できる顕在的なものと、意識できない無意識的なものがあるからだ。もし自尊心をきちんと理解しようと思うなら、ぜひこのことも知っておいて欲しい。
意識できる自尊心・意識できない自尊心
自尊心には、意識できる顕在的なものと、意識できない無意識的なものがあると話した。
ただ、これまで話してきたように、「自尊心とは自分をどれだけポジティブに評価しているか」であることは同じだ。
意識できる自尊心
私たちが「自尊心」と言う場合、たいてい意味しているのが、この意識できる自尊心だ。
意識できる自尊心の研究では、世界的な権威である、ローゼンバーグという研究者がいる。彼は、意識できる自尊心を次のように定義している。
自己に対するポジティブまたはネガティブな態度
この定義は、最初にした自尊心の定義とほぼ同じことが分かる。
さらに彼は、「自分のことをよいとみなす」場合、「自分はとてもよい(very good)」と「自分はこれでよい(good enough)」の2通りの考え方があり、「自分はこれでよい(good enough)」とみなす人のことを自尊心が高い人と定義している。
これをさっきのモデルに当てはめると、こんな感じになるだろう。
- 事実情報
- 価値感(重みづけ)
- 意識的な評価(よい、悪い)
- 感情(喜び、怒りなど)
赤字の部分がポイントだ。評価が意識的になされているのが、意識できる自尊心の特徴になる。基本的に、意識できる自尊心が高い人は次のような特徴があることが分かっている。
- ストレス耐性が高い
- 不安を和らげる
- ストレス対処能力が高い
- 体の健康を促進する
- ポジティブ感情が生まれやすい
- 自信が高まる
- 目標達成力が強まる
意識できない自尊心(無意識的)
一方で、自尊心の研究が進むにつれて、意識できない自尊心があることも分かってきた。
意識できないので、当然自分には分からない。自分には分からないけど、心の奥底で「自分はダメ」とか「自分はイケてる」とか思ってるわけだ。
同じく、さっきのモデルに当てはめると、こんな感じになるだろう。
- 事実情報
- 価値感(重みづけ)
- 無意識的(思い込み的)な評価(よい、悪い)
- 感情(喜び、怒りなど)
意識できる評価とは別に、無意識的に自分で思い込んでいる評価と言うのもある。
例えば、子供時代に、親から「ダメな子」「できない子」と言われて育った人がいるとしよう。仮にBさんとする。
Bさんは、頑張って能力を高めて、大人になって社会的に成功したとしよう。
成功したBさんは、意識的には「自分はできる」とポジティブな自己評価をしているかもしれない。
でも、「ダメな子」「できない子」という思い込みが染みついていて、無意識的にはネガティブな自己評価をしている可能性が高い。
このように、自己評価と一言で言っても、意識できるものもあれば、無意識のものもあるわけだ。
実は、意識できない自尊心については、まだまだ分からないことが多い。例えば、意識できない自尊心が高い人は、どんな特徴を持っているか、まだ分かっていない。
2つの自尊心の関係
今お話してきたように、自尊心についてはまだまだ分からないこともあるものの、意識できる自尊心と意識できない自尊心の2つがあることは確かなようだ。
この2つがあるということは、実際に次のようなことが起こりえる。
- 意識できる自尊心は高いけど、意識できない自尊心は低い
- 意識できる自尊心は低いけど、意識できない自尊心は高い
例えば「意識できる自尊心は高いけど、意識できない自尊心は低い人」というのは、意識的には「自分は素晴らしい」と感じているけど、心の奥底では「自分はダメ」と思っている人のことだ。
何となく、こういう人はイメージできるだろう。このタイプの人は、自己愛的で、まわりに認めてもらいたがりの傾向が強い。
逆に、「意識できる自尊心は低いけど、意識できない自尊心は高い人」というのは、意識的に「自分はダメ」と感じていても、心の奥底では「自分は有能」と思っていたりするわけだ。
こういう人も結構いる。このタイプの人は、完璧主義的で、物事に思いつめやすい傾向がある。うつになりやすい人でもある。
つまり、「自尊心が高いからよい」「自尊心が低いから悪い」と単純に評価できないわけだ。
さあ、どうだろう。これで、自尊心についての説明は終わりだ。もしここまで理解できたとしたら、あなたはまわりの誰よりも自尊心について詳しくなっているはずだ。
最後に、2つの自尊心をどうやって測ればいいかをお伝えする。
自尊心を測る
意識できる自尊心を測る
意識できる自尊心の研究はずっと昔から行われてきた。なので、意識できる自尊心を測定する尺度というのはたくさん開発されている。
尺度と言うのは、簡単に言うとアンケートのようなものだ。
結局、自尊心も含めて、心と言うものは外から客観的に測ることができない。少なくとも現代の技術では。
なので、その人にアンケート形式で答えてもらうしかないわけだ。もちろん、そういう測り方だとその人の主観が入るので、正確に測ることはできない。
そうだとしても、今のところそういう方法でしか測定する手段がないので、アンケート形式で測定するのが基本になっている。
話を戻すが、意識できる自尊心を測る尺度はたくさんあるが、世界的に一番使われているのは、下に示す「ローゼンバーグ自尊感情尺度」というものだ。
あてはまる | ややあてはまる | どちらともいえない | ややあてはまらない | あてはまらない | |
1.少なくとも人並みには価値のある人間である。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
2.色々な良い要素をもっている。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
3.敗北者だと思うことがよくある。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
4.人並みには物事をうまくやれる。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
5.自分には、自慢できるところがあまりない。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
6.自分を肯定的に評価している。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
7.だいたいにおいて、自分に満足している。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
8.もっと自分自身を尊敬できるようになりたい。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
9.自分は全くだめな人間だと思うことがある。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
10.何かにつけて自分は役に立たない人間だと思う。 | 5 | 4 | 3 | 2 | 1 |
この10項目において、それぞれ5(あてはまる)~1(あてはまらない)の5段階で評価する。
それで、それぞれの項目の得点を計算する。普通は数字がそのまま得点になる。ただ、青字にした項目は、1なら5点、2なら4点という風に逆に採点する。
それで、それぞれの項目の得点を合計すると、意識できる自尊心が算出できるというしくみだ。
意識できない自尊心を測る
意識できない自尊心は、アンケート調査と言うわけにはいかない。なぜなら、“意識できないから”だ。そこで、心理学でもかなり特殊なやり方を使って測る。
今からするお話はかなりマニアックなので、興味がなければ読み飛ばしてもらって構わない。あなたの会社でもまず使うことはないと思う。
ただ一応、意識できる自尊心の測り方を伝えたので、意識できない自尊心の測り方も解説しておく。
それが、潜在連合テスト(IAT)という測定方法だ。IATとは、概念間の無意識的なつながりの強さを測るための測定手法だ。
例えば、トランプをイメージして欲しい。そこにはクローバー、ダイヤ、ハート、スペードがそれぞれ13枚ずつ含まれている。このトランプを“次の2つのパターン”でできるだけ早く分類するとする。
ここであなたに質問だ。この2パターンのうち、52枚を早く分類し終えられるのはどちらだろうか?
答えはパターン1だ。というのも、色という共通要素があるからだ。例えば、クローバーとスペードは同じ“黒”なので、頭の中で“同類”としてグループ化されやすい。
これは言い換えると、「クローバーとハート」より「クローバーとスペード」の方が概念的なつながりが強いということだ。だからパターン1の方が早く分類できる。
このようにIATとは、ある2つの概念間の無意識的なつながりの強さを測定するわけだ。この原理をふまえて、「自分という概念」と「ポジティブな概念」の無意識的なつながりの強さを調べることで、無意識的な自尊心を測定できる。
パターン1
例えば、この表を見て欲しい。
自分 ポジティブ | 他人 ネガティブ | |
他人は | ||
私は | ||
明るい | ||
醜い |
- 左上に「自分」「ポジティブ」がセット
- 右上に「他人」「ネガティブ」がセット
になっている。これらは分類ラベルを意味している。
そして、真ん中に並ぶ言葉のリストが・・
- 「自分」または「ポジティブ」に関する言葉の場合、左の空白にチェックする
- 「他人」または「ネガティブ」に関する言葉の場合、右の空白にチェックする
すると、こういう風になる。
自分 ポジティブ | 他人 ネガティブ | |
他人は | ✔ | |
✔ | 私は | |
✔ | 明るい | |
醜い | ✔ |
パターン2
じゃあ次はこれだったらどうだろうか?
自分 ネガティブ | 他人 ポジティブ | |
私は | ||
陰気な | ||
賢い | ||
他者は |
さっきとは違って、
- 左上に「自分」「ネガティブ」がセット
- 右上に「他人」「ポジティブ」がセット
になっている。この場合、答えはこうだ。
自分 ネガティブ | 他人 ポジティブ | |
✔ | 私は | |
✔ | 陰気な | |
賢い | ✔ | |
他者は | ✔ |
この2つのパターンにおいて、制限時間内になるべく早くチェックしてもらうようにするわけだ。
このテストから何が分かるかと言うと・・・
パターン1の方が明らかに点数が高い人は、「自分という概念」と「ポジティブ概念」のつながりが強いということだ。それはつまり、意識できない自尊心が高いことを示している。
「自分という概念」と「ポジティブ概念」のつながりが強い人ほど、その二つの概念はグループ化されて、瞬間的にサッサと分類できるというわけだ。
まとめ
かなりマニアックな話もしたが、要するに、今回あなたに理解して欲しいことは次の通りだ。
まず大前提として、自尊心とは「自分をどれだけポジティブに評価しているか」というその度合いのことだ。
我々は自分に関するあらゆる事実情報(例えば、背が高い)に対して、重みづけや評価をしている。そして、その重みづけや評価に応じて感情を感じる。この時に感じる感情を自尊心(自尊感情)と言う。
一般的に、自尊心というと“意識できる自尊心”のことを言う。でも、“意識できない自尊心”もある。この2つは別物でお互いに影響しあっている。
意識できる自尊心が高い人ほど、次のような特徴がある。
- ストレス耐性が高い
- 不安を和らげる
- ストレス対処能力が高い
- 体の健康を促進する
- ポジティブ感情が生まれやすい
- 自信が高まる
- 目標達成力が強まる
意識できない自尊心が高い人がどんな特徴があるかは、まだ分かっていない。
ただ、意識できる自尊心は高く、意識できない自尊心は低い人は、自己愛的で認めてもらいたがりの傾向が強い。
逆に、意識できる自尊心は低く、意識できない自尊心は高い人は、完璧主義的で物事に思いつめやすい傾向がある。