離職率は、企業の人材管理において重要な指標の一つです。
しかし、その離職率と企業業績の関係性について、深く理解している経営者は意外と少ないのが現状です。
本記事では、離職率が企業業績に与える影響を詳しく解説し、データに基づいた驚きの事実を明らかにします。
第1章：離職率とは？その定義と計算方法
離職率は、一定期間内に企業を離れた従業員の割合を示す重要な指標です。
この数字が高いほど、従業員の定着率が低く、企業の人材管理に課題があることを示唆しています。
では、具体的に離職率はどのように計算されるのでしょうか？
1-1. 離職率の計算式
離職率を計算する基本的な式は、次の通りです。
離職率 = (離職者数 ÷ 平均従業員数) × 100
例えば、ある企業の1年間の離職者数が20人、平均従業員数が100人だとします。この場合、離職率は以下のように計算されます。
(20 ÷ 100) × 100 = 20%
つまり、この企業の年間離職率は20%ということになります。
ちなみに1年間というと、いつからいつまでなのかという問題が生まれます。これはいろいろ考え方があるのですが、厚労省では1月1日から12月末までの1年間としています。
ここで注意したいのは、「離職者数」と「平均従業員数」の定義です。
離職者数には、自己都合退職だけでなく、定年退職や解雇なども含まれます。平均従業員数は、期間内の各月の従業員数を合計し、月数で割って算出します。
これらの数字を正確に把握することが、離職率を正しく計算するための前提条件となります。
1-2. なぜ離職率は重要か？
では、なぜ離職率が重要な指標なのでしょうか。それは、離職率が企業の人材管理状況を端的に表しているからです。
高い離職率は、従業員の満足度やモチベーションが低く、組織への帰属意識が薄いことを示唆しています。
また、離職に伴う採用・教育コストの増加や、業務の継続性への影響など、企業経営にとってマイナスの影響を与えます。
離職率を改善することは、単に従業員の定着率を高めるだけでなく、企業の生産性や収益性を向上させる上でも重要な意味を持ちます。
優秀な人材を確保し、長期的に活躍してもらうことは、企業の持続的成長の基盤となるのです。
1-3. 離職率の目安
では、離職率はどの程度が適切なのでしょうか？
一般的に、年間離職率が10%以下であれば、比較的健全な状態と言えます。
しかし、この数字はあくまで目安であり、業種や職種によって大きく異なります。
例えば、サービス業や小売業では、他の業種と比べて離職率が高い傾向にあります。アルバイトやパートタイマーの比率が高く、従業員の流動性が高いことが主な理由です。
一方、製造業や金融業では、離職率が比較的低い傾向があります。正社員の比率が高く、長期的なキャリア形成を重視する企業文化が背景にあると考えられるからです。
自社の離職率を評価する際は、単に全社平均だけでなく、部門別や職種別の数字も確認することが大切です。
特定の部署で離職率が高いケースでは、その部署特有の課題が潜んでいる可能性があります。
きめ細かな分析を行うことで、より効果的な改善策を立てることができるでしょう。
以上が、離職率の基本的な考え方と計算方法です。
次章では、いよいよ離職率と企業業績の関係性について、データを基に詳しく解説していきます。高い離職率が企業にもたらす影響の大きさを、具体的な数字から読み解いていきましょう。
第2章：離職率と企業業績の関係性～データが語る真実
前章で解説した通り、離職率は企業の人材管理状況を表す重要な指標です。では、この離職率の高低は、企業の業績にどのような影響を与えるのでしょうか？
ここでは、各種データを基に、離職率と企業業績の関係性を詳しく見ていきます。
まず結論を言うと、企業の業績に大きなマイナスの影響を与えることがわかっています。
アメリカの調査会社ギャラップが行った調査によると、離職率が高い企業は、離職率が低い企業と比べて、収益性が18%も低いという結果が出ています（出典：ギャラップ社「State of the American Workplace」）。
この数字は、離職率の高さが企業の収益力に直結していることを示唆しています。それでは、もう少し具体的に見ていきましょう。
2-1. 生産性への影響
高い離職率が企業業績を圧迫する主な要因の一つは、生産性の低下です。
新入社員の教育や育成には、多くの時間とコストがかかります。離職率が高い企業では、常に新しい従業員を教育する必要があるため、生産性が低下してしまうのです。
加えて、ベテラン社員の知識や経験が十分に引き継がれないことも、生産性低下の一因となります。優秀な人材が定着しないことで、業務の質を維持することが難しくなるのです。
ホテル業界の研究では、従業員間の関係が悪くなったり、成長の機会が限られていたりすることが高い離職率の原因となり、それが結果として生産性の低下を引き起こすことが示されています。
例えば、管理職との関係が悪いと従業員は不満を抱き、他の職場を探し始めることが多いとのこと。
また、キャリアの進展が見込めないと感じると、離職の意向が高まり、それが生産性の低下につながります
2-2. 採用コストの増加
離職率が高いということは、その分、新たな採用活動が常に必要になるということです。採用コストには、広告費、人材紹介料、面接にかかる時間などが含まれます。
採用コストは、企業規模や業種によって大きく異なりますが、リクルートによると、一人当たり約100万円になると報告されています。これに加えて、育成コストも発生します。
つまり、仮に年間の離職者数が10人増えれば、数千万円のコスト増加につながるわけです。
特に、中小企業にとって、採用コストの負担は大きな問題となります。
2-3. 顧客満足度への影響
高い離職率は、顧客満足度の低下にもつながります。
特に、販売やサービス業において、顧客との信頼関係は非常に重要な要素です。
担当者が頻繁に変わることで、顧客とのコミュニケーションが滞り、満足度が低下してしまうのです。
顧客満足度の低下は、リピート率の低下や、新規顧客の獲得機会の減少につながります。結果として、売上高の減少を招く大きな要因となるのです。
ある調査では、従業員の定着率が1%上昇すると、顧客満足度が0.5%上昇することが明らかになっています（出典：ハーバード・ビジネス・レビュー「Putting the Service-Profit Chain to Work」）。
つまり、従業員の定着率を高めることは、顧客満足度の向上にも直結しているのです。
以上のデータが示す通り、高い離職率は、企業業績に色んな形で大きなマイナスの影響を与えるわけです。
次章では、実際に離職率が高い企業の特徴と、具体的な業績への影響について見ていきましょう。データを基に、高い離職率がもたらす負の連鎖を詳しく解説します。
第3章：離職率が高い企業の特徴
前章では、離職率と企業業績の関係性について、データを基に解説しました。
高い離職率は、生産性の低下や採用コストの増加、顧客満足度の低下など、様々な形で企業業績に悪影響を及ぼすことがわかりました。
では、実際に離職率が高い企業には、どのような特徴があるのでしょうか。ここでは、離職率が高い企業の共通点について見ていきます。
3-1. 企業文化の問題
離職率が高い企業に共通する特徴の一つが、従業員のモチベーションを維持するための企業文化が醸成されていないことです。
上司と部下のコミュニケーション不足、従業員の意見を尊重しない風土、過度な競争主義など、様々な要因が考えられます。
エンジャパンの行った1万人の離職者に対する調査では、離職理由の上位に
- 会社の将来性に不安を感じた。
- 社風風土が合わない。
などの企業文化に関わる項目がランクインしています。
エン・ジャパンの調査
また、離職率が高い企業は、働きやすさやワークライフバランスに対する配慮が不足している傾向があります。
長時間労働の常態化や、有給休暇の取得しにくさなどは、従業員の心身の健康を損ない、離職のリスクを高める要因となります。
3-2. 評価・報酬制度の不備
適切な評価・報酬制度が整備されていないことも、離職率が高い企業の共通点です。
従業員の能力や成果に見合った評価や処遇がなされないことで、モチベーションの低下を招くのです。
特に、優秀な人材ほど、自身の成長や活躍の場を求めて離職する傾向にあります。
公平性を欠いた評価制度や、成果に見合わない報酬体系は、優秀な人材の流出を加速させる要因となるでしょう。
これも先ほどのエンジャパンの調査ですが。評価人事制度に不満があったが、5位にランクインしています。
評価・報酬制度の不備は、従業員の不満を高め、離職を促す大きな要因と言えます。
以上のように、離職率が高い企業には、企業文化や評価・報酬制度の問題など、様々な課題が潜んでいます。
次章では、こうした課題を克服し、離職率を下げることで期待される企業業績の改善について、詳しく解説します。
第4章：離職率を下げることで期待される企業業績の改善
前章までで、離職率が高い企業の特徴と、その業績への影響について詳しく見てきました。
高い離職率は、企業の収益性を直接的に損ない、持続的な成長を阻む大きな要因となっていることがわかりました。
でも、裏を返せば、離職率を下げることは、企業業績の改善につながるということなのです。
ここでは、離職率の低下によって期待される効果について、具体的なデータを交えて解説していきます。
4-1. 生産性の向上
離職率を下げることで、最も期待される効果の一つが、生産性の向上です。
従業員の定着率が高ければ、ベテラン社員の知識や経験を活かした業務遂行が可能になります。また、チームワークの向上や、業務の効率化も期待できます。
ある研究では、離職率が5%下がるだけで、生産性が3%上昇することが示されています（出典：SHRM「The Cost of Employee Turnover Due Solely to Unfairness in the Workplace」）。
つまり、離職率の低下は、企業の生産性向上に直結しているのです。
4-2. 採用コストの削減
離職率を下げることで、採用コストの削減も期待できます。
新たな採用活動の頻度を減らすことで、広告費や人材紹介料、面接にかかる時間などのコストを抑えることができるのです。
採用コストは、先ほどもお伝えしたように。一人当たり約100万円になります。つまり離職者が一人減ると、育成コストも加味すると、数100万円の利益が浮くわけです。
仮に、年間の離職者数が10人減れば、数千万円のコスト削減効果があると考えられます。
特に、中小企業にとって、採用コストの削減は大きなメリットとなります。
人材確保に十分な予算を割けない企業でも、離職率の低下によって、採用にかかる負担を軽減できるのです。
4-3. 顧客満足度の向上
離職率の低下は、顧客満足度の向上にもつながります。
従業員の定着率が高ければ、顧客との長期的な関係性を築くことができるからです。
特に、販売やサービス業において、顧客との信頼関係は非常に重要な要素です。
担当者が頻繁に変わることなく、安定したサービスを提供できれば、顧客満足度の向上が期待できます。顧客満足度の向上は、リピート率の向上や、新規顧客の獲得にもつながります。
以上のように、離職率を下げることは、生産性の向上や採用コストの削減、顧客満足度の向上など、様々な形で企業業績の改善につながります。
次章では、具体的に離職率を下げるための方策について解説します。
第5章：離職率を下げるための具体的方策
前章では、離職率を下げることで期待される企業業績の改善について見てきました。生産性の向上や採用コストの削減、顧客満足度の向上など、様々なメリットがあることがわかりました。
では、具体的に離職率を下げるためには、どのような取り組みが必要なのでしょうか？
ここでは、効果的な人事施策について、詳しく解説していきます。
5-1. 適切な評価・報酬制度の導入
離職率を下げるための第一歩は、適切な評価・報酬制度の導入です。従業員のモチベーションを高めるには、能力や成果に見合った評価・報酬が不可欠だからです。
公平で透明性の高い評価制度を導入し、成果に応じた報酬を提供することで、従業員の納得感を高めることができます。
また、金銭的な報酬だけでなく、表彰制度や福利厚生の充実など、多面的な報酬制度を検討することも重要です。
MDPIの調査では、報酬制度が適切に運用されることで、従業員のモチベーションが向上し、結果として離職率が低下することが確認されています。
5-2. キャリア開発支援
従業員の成長意欲を高めるには、キャリア開発支援も欠かせません。
社内での能力開発プログラムや、資格取得支援など、従業員のキャリアアップを後押しする施策を導入することが重要です。
また、上司との定期的な面談を通じて、従業員の希望や悩みを把握し、適切なアドバイスやサポートを提供することも大切です。
従業員一人ひとりのキャリアプランを明確化し、その実現をサポートする体制を整えることで、従業員のエンゲージメントを高められるでしょう。
ある調査では、トレーニングとキャリア開発の機会を提供する企業では、そうでない企業と比べて、離職率が60%低いことが示唆されています。出典：The True Cost of Not Providing Employee Training” by Shift eLearning (2019)
5-3. 組織コミュニケーションの活性化
離職率を下げるためには、組織内のコミュニケーションを活性化することも重要です。
部署間の壁を越えた交流の場を設けたり、上司と部下の定期的な1on1ミーティングを導入したりすることで、コミュニケーションの活性化を図ることができます。
また、従業員満足度調査を定期的に実施し、組織の課題を早期に発見・改善することも大切です。
従業員の声に耳を傾け、その意見を施策に反映させることで、従業員の組織への帰属意識を高められるでしょう。
以上が、離職率を下げるための具体的な方策です。
適切な評価・報酬制度の導入、キャリア開発支援、組織コミュニケーションの活性化など、従業員のエンゲージメントを高める施策を複合的に実行することが重要です。
まとめ
本記事では、離職率と企業業績の関係性について、様々な角度から解説してきました。
高い離職率は、生産性の低下や採用コストの増加、顧客満足度の低下など、企業業績に大きなマイナスの影響を与えることがわかりました。
一方で、離職率を下げることで、生産性の向上や採用コストの削減、顧客満足度の改善など、様々なメリットが期待できることも明らかになりました。
離職率を改善するためには、適切な評価・報酬制度の導入、キャリア開発支援、組織コミュニケーションの活性化など、従業員のエンゲージメントを高める施策が不可欠です。
自社の離職率を正しく把握し、課題を明確化した上で、効果的な人事施策を複合的に実行することが求められます。
従業員一人ひとりが活き活きと働ける環境を整備し、企業の持続的な成長につなげていきましょう。
