From:堀口寿人
あなたはきっと「従業員を一致団結させて、一枚岩の強い会社を作りたい」と思っていることだろう。
そして、そのためには、ミッションを明確にしなければいけないという危機感を持っているかもしれない。
でも、そこで必ずぶつかるのがこんな疑問だ。
- ミッションとはどんなものか?
- ミッションを掲げることでどんなメリットがあるのか?
- どうすれば明確なミッションを描けるのか?
こういった疑問に対する解説は、色んなところ見かける。しかし、多くは漠然としていて、実践で使える説明になっていない。
そこで、この記事では、こういう疑問に対する本質的な説明を提供する。
この記事を読めば、きっとあなたはミッションを定めるにあたり、どう考えるべきかがよく分かるはずだ。
1.ミッションとは
ミッションの意味が捉えにくい最大の理由は、説明する人によって微妙に意味が違うからだ。
まず大前提として、ミッションは「社会的使命」と解釈される。大まかな理解はこれで問題ない。
問題はここからだ。社会的使命とは何のことだろうか?そのように、意味をもっと深く掘り下げると、色んな解釈が生れてくる。
今からミッションの具体的な定義をいくつか紹介するので、その違いを見比べてみて欲しい。
1-1.アーサーアンダーセンの定義
アーサー・アンダーセンは、以前にアメリカにあった大手会計事務所だ。アーサー・アンダーセンのミッションの定義は、論文にちょこちょこ取り上げられているので、ここで紹介する。
アーサー・アンダーセンによると、次のようにミッションを定義している。
ミッションとは目的及び事業を表現しているもののこと。
○目的を表すもの
社会におけるその企業の存在目的,社会に対する使命・貢献,事業を行う社会的意義,などその企業が実現しようとしている社会的価値について記述している。
○事業を表現しているもの
その企業が社会に対して提供する製品・サービスあるいはそれらを包括する事業コンセプト,およびその企業が対処とする顧客・市場について記述している.事業の表現を抽象的に行う場合には目的を表すものとの境界は不明確となる。
要するに、アーサー・アンダーセン的に言うと「その組織が、何のために存在し、何を社会に提供するか?」を明確化したものがミッションと言える。
1-2.ドラッカーの定義
次は、言わずと知れた、経営学の神様ピーター・ドラッカー博士の定義を紹介する。
企業の目的とミッションの定義は顧客によってのみなされる。すなわち顧客が財やサービスを購入することで満たされる欲求によって定義される。顧客の欲求を満たすことが企業の目的でありミッションである。
ピータードラッカー著「マネジメント」より
「顧客の欲求を満たす」とは、「顧客に利益を提供する」という風に考えることもできる。もっと言うと、利益とは「顧客が感じる価値」と解釈できる。
つまり、顧客が価値あると感じるものを提供して、実際に顧客が価値を感じたなら、それはミッションを遂行したということだ。
1-3.ジム・コリンズの定義
最後にベストセラー「ビジョナリーカンパニー」の著者ジム・コリンズの定義を紹介する。ジム・コリンズは、ミッションという言葉の代わりに、目的という言葉を使っているが、同じ意味と解釈できるため、ここでもミッションという言葉で統一する。
ミッションとは単なる金儲けを超えた会社の根本的な存在理由。地平線の上に永遠に輝き続ける道しるべとなるべき星であり、個々の目標や事業戦略と混同してはいけない。
ジム・コリンズ「ビジョナリーカンパニー」より
言い換えると、「ミッション=“なぜこの組織が存在するか?”の答え」という言い方もできる。
当然その答えは、「顧客に利益を提供するため」ということになる。
2.ミッションの基本形
ミッションを詳しく議論すると色々な説明が出てくることが分かったと思う。
ただ、共通する要点があることもわかった。その要点をまとめると、次のような基本形に集約できる。
ミッション=(対象者)に(利益)を提供すること
この基本形をベースに考えれば、本質的なミッションが作れる。ただ、このままだと(対象者)や(利益)の解釈について誤解が生まれる可能性があるので、その辺も明らかにしておこう。
2-1.対象者とは
対象者というのは、あなたのサービスや商品を買う人のことだ。
具体的に言うと、既存顧客だけでなく、これからあなたのサービスや商品を買うであろう見込み客も含まれる。
もしあなたの組織が大企業であれば、対象者は「全世界の人」とか「日本国民」とか、そういう広い表現でもいいかもしれない。
ただ、もしあなたが小規模の事業を行っているとすれば、対象者はもっと絞られてくる可能性がある。
2-2.利益とは
次に利益だが、これはもちろん“対象者にとっての”利益だ。あなたにとっての利益ではない。
それと、もうご存知と思うが、対象者にとって、あなたのサービスや商品そのものは利益ではない。
あなたのサービスや商品を使うことで得られる“結果”こそが利益なわけだ。
「ドリルを買う顧客は、ドリルそのものが欲しいのではなく、穴が欲しいのだ」という有名な例えがあるが、まさにこのことだ。
だから、利益を考える場合、「自分のサービスや商品を使うことで顧客はどんな結果が得らえるのか?」を徹底的に考える必要がある。
何となく分かったつもりになって、対象者が得られる利益の分析を適当に済ませてはいけない。
3.ミッションはなぜ重要か?
ドラッカー博士は、次のように言っている。
ほとんど常に、事業の目的とミッションを検討していないことが失敗と挫折の最大の原因である。
ピータードラッカー著「マネジメント」より
例えるなら、ミッションとは方位を指し示すコンパスのようなものだ。例え、薄暗い霧の中で遭難したとしても、コンパスがあれば、目指す方向へ一直線に進むことができる。
でも、薄暗い霧の中コンパスがなかったらどうだろう?おそらく右往左往して、一向に霧の中から脱出することはできないだろう。
人生や経営もこれに似ている。「今後は絶対にこうなる」と断言できるものは一つもない。あらゆる物事は無常だからだ。
それは、いつだって私たちは不確実性の霧の中にいるということだ。そんな中コンパスも持たずに歩を進めるのは非常に危険なのはイメージできるだろう。
そんなわけで、たいてい名だたる著名な企業は、ミッションの大切さを理解しているし、ちゃんとミッションを定義している場合が多い。
そこで、今からいくつかミッションの例を具体的に見ていこうと思う。
4.ミッションの例
今から、世界的に有名な企業がどんなミッションを掲げているのかを紹介していく。ただ紹介するだけじゃなく、対象者、利益をどう設定しているかも、個人的に分析して書き添えていくので参考にしてほしい。
4-1.Googleのミッション
Organize the world’s information and make it universally accessible and useful
世界の情報を整理し、世界中の人がアクセスできて使えるようにする
- 対象者:世界中の人
- 利益:必要な情報
4-2.ウォルマートのミッション
Saving people money so they can live better.
お客さまに低価格で価値あるお買物の機会を提供し、より豊かな生活の実現に寄与する
- 対象者:(お金持ちでない)一般の人たち
- 利益:お金持ちと同じ生活体験
4-3.3Mのミッション
3M is committed to actively contributing to sustainable development through environmental protection, social responsibility and economic progress.
3Mは、環境保護、社会的責任、経済的進歩を通じて持続可能な発展に積極的に貢献することを約束します。
- 対象者:社会
- 利益:持続可能な発展
4-4.メルクのミッション
To discover, develop and provide innovative products and services that save and improve lives around the world.
世界中の命を救い、改善する革新的な製品やサービスを発見、開発、提供すること
- 対象者:世界中の人
- 利益:命の保護、改善
4-5.ウォルトディズニーのミッション
The mission of The Walt Disney Company is to entertain, inform and inspire people around the globe through the power of unparalleled storytelling.
ウォルトディズニーカンパニーのミッションは、比類のないストーリーテリングの力を通じて世界中の人々を楽しませ、情報を提供し、元気を与えること
- 対象者:世界中の人
- 利益:楽しませ、情報を提供し、元気を与える
4-6.マッキンゼーのミッション
To help our clients make distinctive, lasting, and substantial improvements in their performance and to build a great firm that attracts, develops, excites, and retains exceptional people.
顧客企業が独自的で、永続的で、実質的なパフォーマンス改善をするためのお手伝いをすること。優秀な人材を惹きつけ、育成し、わくわくさせ、定着させる素晴らしい企業を構築すること。
- 対象者:企業
- 利益:独自的で、永続的で、実質的なパフォーマンス改善。優秀な人材の確保
4-7.ソニーのミッション
クリエイティビティとテクノロジーの力で、世界を感動で満たす。
- 対象者:世界中の人
- 利益:感動
ほぼすべてが世界的に有名な大企業のミッションなので、やや漠然とした幅広いミッション定義になっている。
ただ中小企業の場合は、もっと絞り込んだミッションを定義することを強くお勧めする。というのも、せっかくミッションを作っても、それが経営に役立たなければ意味がないからだ。
例えば、個人事業でパン屋を営んでいる人が「世界中の人に食の喜びと感動を提供する」というミッションを掲げたとしよう。
素晴らしいミッションだし、一見問題ないようにも見える。でも、このミッションをベースにいざ活動しようとすると、どうなるだろうか?
個人で世界中の人にパンを提供するというミッションは、あまりに広すぎて、実際に何から手を付ければいいのか途方に暮れてしまう。
今はネットがあるので不可能ではないかもしれないが、より対象者を絞り込んだ方が個人事業なら運営しやすいはずだ。
ジム・コリンズも言っているように、ミッションは企業経営の道しるべとならなければいけない。
5.ミッションを明確化しよう
それでは、最後にミッションを明確化してみよう。改めてミッションの基本系を振り返ってみよう。
ミッション=(対象者)に(利益)を提供すること
これがミッションの基本系だ。もちろん、これに加えて、会社の事業内容を書き加えるパターンもある。
ただ一番大事なのは、あなたの会社(事業)の存在意義だ。それはぜったいに定義しなければいけない。そして、存在意義はミッションの基本系で表現されるものになる。
5-1. 対象者を定義する
まずは、対象者を定義しよう。「自分のサービスや商品を売れるならだれでも」と思うかもしれないが、それではダメだ。
というのは、それは自分目線の話だからだ。主語を“相手”にしなければいけない。それで、「自分のサービスや商品を欲しがるのは誰か?」と徹底的に自分に聞いてみよう。
何度も言ってきているように、もしあなたが小規模の事業者であれば、対象者は絞り込んだ方がベターだ。
例えば、私の例で言うと「中小事業者」という風になる。
5-2. 利益を定義する
次に利益を定義しよう。利益は、今定義した対象者が得る利益だ。こう自分に聞いてみよう。
- 対象者は、何に価値を感じるだろう?
- 対象者はどんなニーズを持っているだろう?
- 自分のサービスや商品を買うことで、対象者はどんな結果を望むだろう?
必ずこの3つの質問に対する答えを出して欲しい。そうすれば対象者が得られる利益が明確になるはずだ。
私の場合で言うと、「従業員が幸せになって企業利益が高まる」という表現になるだろう。
5-3. ミッションを明確化する
“対象者”と“利益”が明確になったら、それを合体させて文章にしよう。まずは基本系に当てはめてみて、その上で成型すると文章化しやすいだろう。
例えば私の例で言うと、
- 対象者:中小事業者
- 利益:従業員が幸せになって企業利益が高まる
なので、これを基本系に当てはめると、私のミッションは、「中小事業者に従業員の幸福と企業利益の向上を提供すること」となる。
これを、もう少しこなれた表現にすると「中小事業者の従業員が幸せになることを通じて企業利益が高まるのを支援すること」という感じだろうか。
これを参考に、あなたの会社のミッションを明確化してみよう。
6.まとめ
ミッションとは、一言で言うと、社会的使命だ。社会的使命とは言い換えると、存在意義という言い方もできる。
すなわち、ミッションとは「なぜあなたの企業が存在するか?」という問いの答えだ。ミッションは、次のような形で表現される。
ミッション=(対象者)に(利益)を提供すること
ミッションは、深い霧の中、進むべき方向を指し示すコンパスのような存在だ。失敗と挫折の最大の原因は、たいていの場合ミッションがあいまいだからだ。
今すぐミッションを明確化しよう!
病院で看護師をしています。今退院支援を進めていきたいと考える中、私たちのビジョン、ミッションを考えようとしましたが、なかなか進まず先生のHPにたどり着きました。先生の書かれている通りに作ってみました。
ビジョン「すべての患者さんが治療を終え、安心して地域に戻れること」
ミッション「患者さんの意思決定に寄り添い入院生活を支える。患者さんが笑顔になれるよう、○○病院に来て良かったと思えるような医療と看護を提供する」
私は患者さんが「ここに来て良かった」と言ってくれるのが一番嬉しい! 疲れも吹っ飛びます。
このようなビジョン、ミッションでいいのでしょうか?
アドバイス頂ければ嬉しいです。
菊池さん
コメントありがとうございます。
病院で、ミッションやビジョンを掲げようとされてるんですね^^
とても有意義なことと思います。
まず、ビジョンを掲げるには、
1.価値観
2.ミッション
3.ビジョン
の順番に考えていきます。
「価値観」は、病院として大事にしていることですね。
それは、「患者さんの喜び」かもしれませんし、「患者さんが早く良くなること」かも知れません。詳しくはこちらを参照してくださいね。
https://www.hisato.jp/values
価値観は、病院の方向性になりますので、一番先に決めます。
価値観が決まったらミッションを決めます。「ミッション」は、「○○に利益を提供すること」という形になります。
菊池さんの場合でしたら、「患者さんに( 利益 )を提供すること」という形になるでしょう。
( 利益 )の部分は、価値観にそった患者さんへの利益が入ります。
例えば、分かりませんが「早い回復」「温かい対応」「痛くない治療」のようになるかもしれません。
そして、そのミッションを、ずーっと繰り返していった先にはどんな世界が待っているでしょうか??
それが「ビジョン」です。もしかして一生かけても実現できないかもしれない。でも、ワクワクするような素敵なビジョンを考えてみてくださいね。
それができた時、きっとスタッフさんも患者さんも含めて大きな共感が生まれると思いますよ^^
※補足です。
ちょっと、考え方の転換が必要な部分がありまして・・。
患者さんは、「治療」そのものを欲しているわけではないというところです。
何かが欲しいから、「治療」という道具を使うわけですね。
よくある例えが、ドリルの例えです。ドリルを買う人は、ドリルが欲しいのではありません。「穴」が欲しいわけです。
これと同じように、菊池さんの病院に行くことで、患者さんは何を得ようとしているのでしょうか?
これが、ベネフィット(利益)になります。