From:堀口寿人 金沢のオフィスより
下の画像を見て欲しい。これは健康経営優良法人2020の認定基準だ。これを見てどう思うだろうか?
私は、素直に「分かりづらい」と思った。さらに、それぞれの項目で分かりづらい詳細な説明が続く。お忙しいあなたのこと、そんなのを一つずつ読むのはうんざりだと思う。
なぜ、分かりづらいのかと言うと、色んな情報が一か所に集約されているからだ。例えば、
- どんな評価項目があるか?
- その評価項目はどこに分類されるか?
- どんな項目をいくつ満たす必要があるか?
といったことが、認定基準には一か所に集約されている。さらに、それぞれの評価項目の内容もしっかり理解しないといけないので、余計に難しく感じるわけだ。
なので、この記事では、 健康経営優良法人の認定基準を1から10まで説明することはしない。そうじゃなくて、一番大切なものだけに焦点を絞って解説していく。
その一番大切なものとは、「評価項目」だ。どんな取り組みが評価の対象になるかさえ理解してしまえば、後は簡単だ。
そこで、今から評価項目の内容を分かりやすくかみ砕いて説明していく。
ただし、評価項目だけ説明すると言っても、それなりの量があるので、2回に分けて説明する。まず今回は、赤枠の所まで説明する。残りは次回に説明する。
健康宣言の社内外への発信・経営者自身の健診受診
この項目では、経営者自身が健康経営に前向きに取り組んでいることを、社員に示しているかどうかを見ている。
この項目では、次の2つの基準を両方とも満たす必要がある。
【基準1】経営者が健康経営の意思を宣言していること
一つ目は、経営者が、保険者のサポートを受けて、従業員の健康管理に取り組むことを内外に宣言していることが求められる。
OKな例としては次のようなものがある。
- 従業員一人一人に回覧板を回す
- 従業員が集まっている場所で発表する
- 従業員全員の目につく掲示板に貼る
- 会社のホームページで告知
- 事務所の入り口などに設置する
逆にNGなものとしては次のようなものがある。
- 社長の個人的なSNSで発信
- 口だけの伝達(書いたものがない)
- 保険者が関与していないこと
【基準2】経営者自身が健康管理を実践していること
経営者自身が、年に1回定期的に健診を受診していることが求められる。特定の病気で主治医の下で検査した場合は該当しない。
あくまで、予防の一環として定期健診を受けているというのがポイントだ。
健康づくり担当者の設置
ここでは、全事業場で健康づくり担当者を設置していることを求めている。
健康づくり担当者は、次のようなことを行う。
- 健康診断や保健指導を実施する
- 特定保健指導の連絡窓口になる
- 経営者、産業医、保険者などへの報告、連絡、相談を行う
健康づくり担当者には、衛生管理者、衛生推進者、協会けんぽの健康保健委員、総務部の担当者などがなるのが一般的だ。
それと、健康づくり担当者は事業場ごとに別々に設置しなければいけない。
定期健診受診率(実質100%)
次の基準のうちどちらかを満たせばOKだ。
【基準1】受診率100%
やむを得ない場合を除き、直近の定期健診の受診率が100%であること。
【基準2】受診率95%以上+未受診者への受診勧奨
やむを得ない場合を除き、直近の定期健診の受診率が95%以上で、かつ、まだ健診を受けていない人に健診を受けるよう勧めていること。
やむを得ない場合とは
- 定期健診の予定日の直前に、長期の病休を取ることになった
- 出産や育児のために一年以上休業している
- 一年を超える海外赴任をしている
受診勧奨の取り組み
次の基準のうちどちらかを満たせばOKだ。
【基準1】再検査を促す取り組み
定期健診の結果、再検査や精密検査が必要になった従業員に、受診を促す取り組みがあること。次のような内容であればOKとみなされる。
- 受診を進めるために対象の従業員に個人的に連絡している
- 再検査、精密検査、治療にかかる時間を出勤扱いとしている
- 再検査、精密検査、治療にかかる時間を特別休暇としている
- 再検査、精密検査、治療にかかるお金の一部を補助している
【基準2】任意検診を促す取り組み
がん検診などの任意検診の受診を促す取り組みがあること。
- 受診を進めるために対象の従業員に個人的に連絡している
- 任意検診にかかる時間を出勤扱いとしている
- 任意検診にかかる時間を特別休暇としている
- 任意検診にかかるお金の一部を補助している
- 任意検診ができる病院と提携している
50人未満の事業場におけるストレスチェックの実施
この項目では、50人未満の全ての事業場でストレスチェックを行っていることが必要になる。
この場合、労働安全衛生法にのっとった正規のやり方でやらなければ基準を満たしたことにはならない。
NG例
- 実施者を立てずに、御社のスタッフだけで勝手にストレスチェックをやった場合
- 高ストレス者を判定して医師の面接指導へつなぐしくみがない場合
- 社長が、個人の結果を見れるようになっている場合
もし、御社の事業所が全て50人以上だった場合、おそらくストレスチェックはもうなされているだろう。なので自動的にこの基準は満たすことになる。
健康増進・過重労働防止に向けた具体的目標(計画)の設定
この項目では、従業員の健康課題を把握し、それを踏まえて、従業員の健康増進のために計画を立てていることが評価対象となる。
この場合、誰が、いつまでに、何を目指してやるかといった具体的な計画が必要だ。できるかぎり数字で具体化することが望ましい。
ただ、この項目で評価されるのは「目標を立てているかどうか」であって、「目標を達成したかどうか」ではない。なので、目標をきちんと立てられていれば基準を満たしたことになる。
この項目は、来年度の健康経営優良法人2021の認定から、必須になるようなので、ぜひ押さえておきたい項目だ。
OK例1
指標 | 再検査・精密検査の受診率 |
数値目標 | 受診率100%にする |
具体的な計画 | 対象者に受診を促すメールを返信があるまで送り続ける |
だれがやるか | 総務部 ○○ |
OK例2
指標 | 月の残業時間 |
数値目標 | 一人当たり月平均10時間減らす |
具体的な計画 | ノー残業デーを週1日設け、月の残業時間を減らす |
だれがやるか | 人事部 ○○ |
OK例3
指標 | 再検査・精密検査の受診率 |
数値目標 | 受診率100%にする |
具体的な計画 | 対象者に受診を促すメールを返信があるまで送り続ける |
だれがやるか | 総務部 ○○ |
OK例4
指標 | 有給取得日数 |
数値目標 | 前年と比べて平均取得日数を5日増やす |
具体的な計画 | 部署ごとに既定の有給取得日数に達していない社員の割合を算出し、それを部長職の評価に反映させる |
だれがやるか | 人事部 ○○ |
OK例5
指標 | メンタルヘルス不調者数 |
数値目標 | 前年より10%減らす |
具体的な計画 | メンタルヘルスの相談窓口を社内に設置する |
だれがやるか | 総務部 ○○ |
OK例6
指標 | 非喫煙者比率 |
数値目標 | 前年より10%増やす |
具体的な計画 | 禁煙外来にかかる費用の一部を会社が負担する制度を導入する |
だれがやるか | 人事部 ○○ |
管理職又は従業員に対する教育機会の設定
この項目では、次のどちらかを満たせばOKだ。
【基準1】研修などによる場合
その年度に、最低でも1回は、健康促進を目的とした研修に参加させていることが評価基準となる。
この場合、社内に講師を呼んで社内で研修してもいいし、社外の研修に参加させてもいい。
それに研修に参加させる者は一般の従業員でもいいし、管理職でもいい。必ずしも全ての社員が研修を受けなければいけないわけではないようだ。
その他、管理職が外部の研修を受けて、その内容を社内の従業員とシェアしている場合もOKだ。
要は直接であれ間接であれ、学ぶべき人が学ぶべきことを学んでいればOKということだ。
ただし、ここで言う研修とは会社がお膳立てした研修でないといけない。
従業員が勝手に個人的に自腹で研修を受けたからといって、この基準を満たしたことにはならないので注意。
【基準2】定期的な情報提供による場合
これは、最低月に1回のペースで、全従業員に対して健康をテーマとした情報を提供していることが必要となる。
ここでのポイントは、従業員が自分から能動的に情報を拾いに行かなければいけないやり方はNGということだ。
例えば、「掲示板に情報を貼る」というやり方は、従業員がいちいちそれを見に行かなければならない。なのでNGというわけ。
あくまで、従業員が受動的に受け取れるようにしなければいけない。なので、次のようなやり方になるだろう。
- 個別にメールする
- 社内報を個別に配る
- 回覧板で回す
OKな内容例
- 健康に関する知識を高めるもの
- ワークライフバランスを促進させるもの
- 職場の活性化につながるもの
- 病気の治療と仕事の両立支援に関するもの
- 感染症の予防対策に関するもの
- 健康の増進・生活習慣病の予防対策に関するもの
- メンタルヘルス対策に関するもの
- 受動喫煙対策に関するもの
NGな内容例
- AEDの取り扱い法→健康に直接的に関わる知識ではないから
- 自社の健康関連商品についての研修→従業員の健康のためだけに行う研修ではないから
- 体力測定の機会を提供→現状の把握にとどまるから
- 女性の健康に関する研修→「女性の健康保持・増進に向けた取り組み」で評価されるため
適切な働き方実現に向けた取り組み
この項目では、従業員の仕事とプライベートを両立させるために何かしら取り組みを行っていることが評価基準となる。基準を満たす取り組みとしては次のようなものがある。
OK例
- ノー残業デーを設定している
- 業務の忙しさに応じて、休業日や労働時間を調整している
(例)水曜日には19時に強制的に社内PCの電源を切る - 有給休暇を取らせるような働きかけがある
- 育児や介護のために法で決められている以上の時短勤務を設けている
- 従業員を働かせすぎないためにアルバイトを雇って人手を増やしている
- 従業員の働き方を改善するために設備に投資したりシステムを導入したりしている
- 部下を働かせすぎないため、部下の勤務状況を上司の人事評価に組み込でいる
- 従業員のワークライフバランスを考慮して適切な配置転換を行っている
NG例
- 一部の従業員だけをひいきした取り組み
- 法で決まっている範囲内の取り組み
- 36協定の範囲内の取り組み
- 単に従業員の労働時間を把握しているだけで、それに対して何もやっていない
コミュニケ-ションの促進に向けた取り組み
ここでは、従業員同士のコミュニケーションが促進されるような取り組みを年度に1回以上やっていることが評価基準となる。
その取り組みは、社内イベントでもいいし、外部のイベントへの参加でもいい。また、参加者も必ずしも全社員でなくてもいい。一部の社員でもOKだ。
ただし、会社が関与しないところで、社員が個人的にそういったイベントに出席しても評価基準を満たしたことにならない。必ず会社が主体となっていなければならない。
重複適合
この項目以外でも、コミュニケーションが促進を目的としている場合、重複適合になるのでお得だ。ただし、次の2つの項目は、重複適合とはならないので、注意が必要だ。
OK例
- フリーアドレス(固定席廃止)を導入する
- 外部機関が主催する健康イベントに組織として参加する
- 家族同伴の運動会の実施(「運動機会の増進に向けた取り組み」とダブル適合)
- 会社が費用負担する忘年会の実施
NG例
- メンタルヘルス相談コーナーの設置→「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」の項目で評価するため
- 企業展示会への出展→仕事の延長であるため
- 顧客満足向上のためのワークショップ開催→仕事の延長であるため
- 従業員主体の忘年会→会社が主体でないため
要するに、会社主体でなかったり、仕事の一環としての活動は全部ダメということだ。あくまでコミュニケーション促進の目的のために会社が主体となって行う取り組みである必要がある。
病気の治療と仕事の両立の促進に向けた取り組み
ここでは、従業員の病気の治療と仕事との両立を支援するために会社が何かしら取り組みを行っていることが評価基準となる。
具体的には、次の2つのうちどちらかを満たせばOKだ。
【基準1】相談窓口を設置している
治療が必要な従業員のための相談窓口を設定していて、その窓口の存在を広く知らせていることが評価基準となる。
【基準2】必要な対策を定めている
治療が必要な従業員を支援するためにどんなことをするかを具体的に決めていることが評価基準となる。
この項目で評価されないもの
- メンタルヘルス不調者への支援→「メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み」で評価
- 再検査・精密検査が必要な人への支援→「受診勧奨の取り組み」で評価
- この項目に関する研修→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価
OK例
- 治療が必要な従業員、それを支援する上司・同僚のための相談窓口を設置し、そのことを周知する
- 治療が必要な従業員のために関係者(本人、上司、人事、保健スタッフなど)が会議を開き、その人の作業内容を見直す
- 治療のために、年次有給休暇とは別の手当てを設置する(有給・無給に関わらず)
- 病気の治療と仕事を両立するためにどうしたらいいかを話し合う面談を行う
- 治療のための費用をねん出するために会社が必要な保険に入っている
NG例
- 治療のために年次有給休暇を当てている
- 正社員だけなど、特定の者だけを対象にしている
今回のまとめ
今回は中項目で言うと・・・
- 従業員の健康課題の把握と必要な対策の検討
- 健康経営の実践に向けた基礎的な土台づくりとワークエンゲイジメント
の2つに該当する評価項目を説明してきた。
次回は主に、「従業員の心と身体の健康づくりに向けた具体的対策に該当する評価項目」について説明していく。
後半は、「中小企業の方へ。健康経営優良法人2020の認定基準を分かりやすく解説2」の記事で説明しているので参考にして頂けたらと思う。