From:堀口寿人
- 仕事の取引先との人間関係がうまくいかない
- 職場の上司や同僚との人間関係がうまくいかない
- 夫婦や子供との関係がうまくいかない
などなど。人間関係のトラブルは昔からずっとある問題だ。
なぜ人間関係がうまくいかないのか?ずーっと僕たちの先祖は、人間関係を研究してきたはずなのに・・・
その答えは、実は、僕たちの人間としての構造にある。
というのは、僕たちは、人とコミュニケーションをとるとき、必ず2つのフィルタを通すことになる。この2つのフィルタが曲者なのだ。
この2つのフィルタがあるから、僕たちは誤解し、無駄にイライラし、無駄に欲張り、意義のないコミュニケーションをしてしまう。
そもそもフィルタとは何か?そして、2つとは何と何か?その辺からまず見ていこう。
フィルタとは?
フィルタって何?
お気づきかも知れないが、フィルタとはものの例えだ。フィルタというものが僕たちの中に存在するわけじゃない。
では、何を例えたものか?
それは脳だ。
僕たちは人とコミュニケーションをとるとき、常に脳には情報が出入りしている。
そのとき、ただ情報が出入りしているだけならまだいい。実際は、「情報が出入りするたびに情報が書き換わる」という現象が起きている。
例えば、すごく無口で不愛想な人Aさんがいたとしよう。Aさんに対して、あなたが「なんて無口で不愛想な人だ。きっとこの人は性格が悪いんだ」と思ったとしよう。
ただ、よくよく話を聞いてみると、Aさんは「小さいころに両親に捨てられて人を信じられなくなった」という過去を持っていた。
その情報を聞いたあなたは、これまで通り、「Aさんは性格が悪い」という考えを持ち続けるだろうか?
きっと考え方が変わるだろう。例えば「Aさんは子供時代の困難を切り抜けてきた強い人」のように。
あくまでAさんは架空の人だが、こういった記憶の書き換えは、僕たちの頭の中でよく起こっている。
昔の中国の話。
いつの時代か忘れたが、ある報告係が、自分の軍のが戦に勝ったことを大将に報告しに行った。大将は、すごく喜んで、その報告係に財宝を与え、感謝したそうだ。
しかし、次の戦。自分の軍が負けてしまった。同じ報告係りが、大将に負けたことを報告しに行ったのだ。すると大将は怒り、その報告係の首をはねてしまったという。
同じ報告かかりでも、ちょっとした条件で、あるときはいい報告係、あるときは悪い報告係という風に評価が分かれてしまう。言いかえると、人の記憶は、ちょっとした条件ですぐに頻繁に書き換わっているということだ。
じゃあ、このときに脳ではどんなことが起こっているのか?
脳で起こっていること
脳は情報処理装置だ。
情報処理ということは、何らかの情報が入ってきて、それを処理して別のものにするということだ。ということは、入って来るインプット情報と、出ていくアウトプット情報があるということになる。
ここからは、「蛇を見て危険だと判断して逃げる」という場合に脳で起こっていることを見てみよう。
情報処理のスタートはインプット情報の受け取りだ。
インプット情報を受け取るのは五感。五感の感覚器からそれぞれの「生情報」が入って来る。
「生情報」と言ったのは、この時点では、まだ何の手も加えられていないあるがままの情報だからだ。このときの情報は、「色は緑」「長細い」「ニョロニョロしている」といったような断片的な情報だ。今言葉で表現したけど、実際は言語化もされていない。
もちろん、その状態では、まだそれを蛇だと認識できていない。だから、その情報が何かを認識するために、次に解析しなければいけない。
そのために、五感で受け取った情報は脳に送られる。脳は、送られてきた生情報とすでに保管されている過去の情報を照らし合わせる。
そして、過去の情報を手掛かりにして、「これはどうやら蛇らしい」と情報を解釈するわけだ。この解釈のときに情報の歪みが生まれる。大事なポイントなのでもう一度言う。情報は五感で受け取った時は歪んでいない。脳で解釈するときに歪みが生まれる。
というのは、人によって既存データに違いがあるからだ。だから、同じものを見ても、ある人は蛇と解釈するかもしれないし、ある人は紐と解釈するかもしれないし、ある人は電気のコードと解釈するかもしれない。
それで、まあ蛇だと解釈したとしよう。蛇だと解釈したからそれでOK??いや、まだやることがある。次に、その蛇に対してどう対処すればいいのかという問題になる。
というわけで、五感で受け取った情報から蛇だと認識できたら、その認識を元に、脳は体や脳の他の部分に信号を送る。「これは危険なものですよ!」といったように。
そして、その信号を受けて、体や脳の他の部分が、蛇という対象に対応する。
こんな感じで、「新しい情報→五感で受け取る→信号を脳に送る→脳で解釈する→信号を体や脳の他の部分に送る→その部分が反応する」というプロセスを必ず踏むわけだ。
これは僕たちが人と話すときも同じだ。必ずこのプロセスを踏む。
実は脳も感覚器
そして、ここでとても重要なポイントがある。実は、脳も感覚器なのだ。というのも、脳は記憶という情報をキャッチするからだ。
ということは・・・
仮に五感から情報が入って来なくても、ただ妄想しているだけで、さっきの情報処理のプロセスをグルグル回すことになるわけだ。
そして情報がねじ曲がる・・・
当然、そのプロセスに脳というフィルタは欠かせないので、プロセスを回すほど、情報はどんどん上書きされていくわけだ。
それによって、情報は本来の情報でなくなってしまう。自分の偏見がたっぷり練り込まれた自分流の情報ができあがるというわけ。
でも、困ったことにフィルタをはずすことはできない。というのは、フィルタとは脳そのものだからだ。
で、さっき「情報を解釈するときに情報の歪みが生まれる」と話した。厳密に言うと、その解釈するときの脳の働きを“フィルタ”に例えているわけだ。
さらに・・・
そのときのフィルタは実は2種類ある。
2種類のフィルタ
感情フィルタ
一つ目は、感情フィルタだ。感情フィルタは、主に表情や声のトーンやリズムなどの感覚的な情報に反応する。
情報に反応すると、「好き」「嫌い」といった判断を下す。その結果、感情フィルタを通した情報は、好きとか嫌いといった感情情報が練り込まれた情報になる。
思考フィルタ
もう一つが思考フィルタだ。思考フィルタは、ニュースなど話の意味・内容といった情報に反応する。
情報に反応すると、「その情報は自分にとって得かどうか」を吟味する。その結果、なるべく自分の得になる様に情報はねじ曲げられることになる。
言い換えると、僕たちは自我愛を肯定するものしか、生存欲を肯定するものしか理解しないということだ。
これが、人の2種類のフィルタだ。さらに、人間関係においては、この2種類のフィルタが、聞き手と話し手の両方に存在することになる。つまり、イメージ的に表すとこんな感じになる。
フィルタは人の脳の働きなので、この図はあくまでイメージとして受け取って欲しい。感情フィルタと思考フィルタもお互いに関係しあってるので、こんな単純じゃない。
それでは、次にこの2種類のフィルタが、聞き手と話し手でどのように働いているのかを見てみよう。
聞き手のフィルタ
感情フィルタ
例えば、あなたが職場の仲間と話しているとしよう。そのとき、あなたは職場仲間の話し方が妙に気になったとしよう。
もしあなたが、いったんその話し方を好きと判断すると
- きっとこの人は、友達も多いんだろう
- きっとこの人は育ちもいいんだろう
- きっとこの人はファッションセンスも素敵だろう
のように、情報を勝手に盛り付けていくかも知れない。
もしあなたが、いったんその声を嫌いと判断すると
- きっとこの人は、友達はいないだろう
- きっとこの人は育ちも悪いだろう
- きっとこの人はファッションセンスもダサいだろう
のように、情報を勝手に盛り付けていくかも知れない。ちなみに、これをハロー効果と言って、一を見て十を判断してしまうわけだ。これは誰にでもある人間としての癖だ。
好きと判断するにしても、嫌いと判断するにしても、結局情報は好き嫌い感情の影響を受けることになり、情報を正しく受け取ることができなくなる。
思考フィルタ
例えば、あなたがネットで「人間関係がうまくいかない人へ。人間関係を改善する方法」というDVD教材を見つけたとしよう。
そこで、こういう風に書かれていたらどう感じるだろうか?
- 人間関係につまづく10のポイントが分かります
- 人間関係を改善するために必要なポイントが全て分かります
- あなたは今後一生職場の人間関係に困ることはありません
- 会社員の方であれば、昇進が早くなり、事業者の方であれば、売り上げが伸びます
- 夫婦関係が改善します
- 子供とのコミュニケーションが増えます
こう言われると、「ホントかな?」と思いつつも、つい耳を傾けたくならないだろうか?信じたくならないだろうか?
その理由は、どれもあなたの自我愛を肯定する内容ばかりだからだ。
でも・・・
- 人間関係につまづくポイントをお伝えしますが、それが人間関係にどう影響するかはわかりません
- 人間関係を改善するために必要なポイントが分かりますが、それが人間関係にどう影響するかはわかりません
- この教材で学んでも、すぐに職場の人間関係が改善することはありません
- 昇進が早くなり、売り上げが伸びる場合もありますが、それは必ずしもこの教材の成果かどうかは不明です。
- 夫婦関係が改善する場合もありますし、変わらない場合もあります
- 子供とのコミュニケーションが増える場合もあるし、変わらない場合もあります
と言われたらどうだろうか?
仮に事実だとしても、前のめりに聞きたい気持ちにならない。でも本当は聞くべきなのは事実なのだ。もちろん、最初に書いたことが全て事実であれば問題ないわけだけど。
話し手のフィルタ
感情フィルタ
例えはよくないかもしれないが、よくネットで、自分の好きなことばかりを書いている自己満足的なブログを見かける。一方で、文句ばっかり書いているブログもある。
そういった内容は、その人の好き嫌いといった感情フィルタを通して発信されているわけだ。だから、情報は、その人の感情の都合にねじ曲げられている。
思考フィルタ
例えば、親は子供に「勉強しなさい。あなたのためなのよ!」と言う。でも、子供は勉強しない。
子供は鋭くて、親は本当は「自分のために言ってくれているわけじゃない」ということに勘づいている。
そう。もしかして親は、例えば、自分の子育てが間違ってなかったと自分に言い聞かせたいために、「勉強しなさい」と言っているかも知れないのだ。だとしたら、結局それは自分のために言っているわけだ。親が自我愛を肯定するために。
悪徳セールスマンもそう。僕は昔高額の浄水器を買ってしまったことがある。
その訪問販売員いわく「浄水器を買えば、お店で買う水と同じクオリティの水が安い値段で毎日飲める。お客様に大きなメリットがある。」というのだ。
今思えば笑い話だが、当時、本当に得だと思って、30万円の浄水器を買ってしまったわけだ。後で分かったが、その浄水器は店だと1万円くらいで買えるレベルのものだった。
実は、浄水器を買って、本当にメリットを手にしたのは、その訪問販売員だったというわけ。訪問販売員は“自分のために”価格に見合わない高額商品を売ったわけだ。
そして、僕も自分の損得の思考フィルタを通して、買ってしまったというわけだ。
だから人間関係はうまくいかない
これまでをまとめよう。
- 情報の聞き手からすると、自分の都合のいいところだけ理解したい。または自分の好きな情報だけ取り入れて、嫌いな情報は排除したい。
- 情報の話し手からすると、自分の都合で作った情報をそのまま理解させたい。または自分の好きな情報や嫌いな情報を発信して理解させたい。
という感じだ。つまり、人と人がコミュニケーションをとるとき、毎回、聞き手と話し手の2重のフィルタを通る。だから、話し手が発する情報と、聞き手が受け取る情報は根本的に違う。だから誤解も生まれるし、人間関係はうまくいかない。
まとめ
人は話すとき、聞く時、情報を頭の中から出し入れする。情報を出し入れするたびに情報が自分の都合で書き換わる。
その時、通るフィルタが、感情フィルタと思考フィルタだ。
この2種類のフィルタが、話し手と聞き手に存在するため、どうやっても話し手と聞き手の情報にはズレが生まれる。
人にはこういうコミュニケーションの性質があるので、人間関係がうまくいかないのは、当たり前。あなたのせいじゃない。
堀口さま
この内容、とても分かりやすくてタイムリーでした。携帯ショップで嫌な応対をされ、落ち込んでいた時にこの記事がメールで届き、読ませて頂き、私も店員さんも自分のフィルターを通していたということが分かりました。
私は一瞬にして店員さんのことが嫌いになっていたのだと思いました。
そして、そのように思っている自分のことも嫌いになっていたという事にも気付きました。
自分と自分との間の人間関係が壊れるところでした。
今日は、堀口さんのお陰で尾を引かなくて済みそうです。
本当にありがとうございました。
Youさん
コメントありがとうございます。お役に立てましたようで光栄です^^
基本的に、「自分の解釈にはいくぶんかの主観が練り込まれている」ということを念頭においておけば、「絶対に自分が正しい」という考えにも至りにくいと思います。
その柔軟さが人間関係のキーとも言えそうですね。
お幸せでありますように。