From:堀口寿人
臨床心理大学院の研究室より
自己効力感には正しい定義がある。
あくまで正しい定義だ。分かりやすい定義じゃない。だから心して聞いて欲しい。
自己効力感とは「望む結果を生み出すために必要な一連の行動を体系化し、それを遂行する能力が自分にはあるという思い込み」という意味だそうだ。
もし、あなたが僕と同じ感覚の持ち主なら、これを聞いて「はあ?」と思うことだろう。だから、もう少し分かりやすくかみ砕いて見ていこう。
自己効力感をもっと分かりやすく教えて!
自己効力感とは?
じゃあ、さっきの続きだ。さっきの正しい定義を、分かりやすく変換すると、こうなる。
「望む結果を得るために必要な行動ができるという思い込み」
どうだろう?もう少し分かりやすくなったんじゃないだろうか?
一つ注意して欲しいのは、自己効力感は「結果」じゃなくて、「行動」そのものに焦点を当てている。言いかえると、必ずしも自己効力感が高いからと言って、結果が得られることを確信しているわけじゃない。
例えば、あなたが中学生だったころを思い出してほしい。
学校にも慣れてきたころ、中間テストをやるという発表があった。あなたはできればテストで100点をとりたい。でも、そのためにはテスト勉強をしっかりやる必要がある。
この場合、あなたの自己効力感がもし高ければ「自分はテスト勉強にしっかり取り組める」と確信しているだろう。
もし、あなたの自己効力感が低ければ「自分はテスト勉強にしっかり取り組めないかもしれない」と感じるわけだ。
こんな感じで、自己効力感は、結果を得る前の行動に焦点を当てている。結果そのものに焦点を当てているわけじゃないので、その点が注意だ。
もちろん行動も結果を得るための原因なわけで、そう言う意味では自己効力感も結果に影響しているのは間違いないが。
まあ、自己効力感が低いとき、高いときにどうなるのかは、また最後に触れるので、ここでは大体の意味が分かってもらえればOKだ。
自尊心とどう違う?
自己効力感と似た言葉に、自尊心という言葉がある。自尊心については「自尊心の本当の意味とは?」を読んでもらえればよく分かると思うので、ここではさわりだけ。
自尊心は、自分の価値をどう評価しているかという問題になる。一方で、自己効力感は、行動できるかどうかという問題になる。
例えば、僕はギターを弾いたことがない。だから、「はい。じゃあ寿人さん、ギター弾いてください」と言われると、たぶんしどろもどろするはずだ。
だから、僕はギターを弾くことに関しては、自己効力感がない。ただ、だからと言って僕は自尊心を失ったりしない。
というのも、僕は日常的に瞑想やポジティブトレーニングを実践しているし、そんな自分を誇らしく思っているからだ。これが自尊心が高い状態だ。
補足だが、自尊心が高いからと言って、「どうだ!」と見せつけたいわけじゃない。逆にそういうことをする人は自尊心が低い人かもしれない。
その理由は「自尊心の本当の意味とは?」に詳しく書いてある。
自信とどう違う?
自効力感は自信とも意味が似ている。というか、自信という言葉も意味が広くてあいまいだから、単純に比べにくいところがあるが。
自信というのは、ザックリ言うと「望む結果を得られるという思い込み」のことだ。望む結果というのは、実はとてもあいまいな概念で、どうとでもとることができる。
例えば、あなたが山登りに行くとする。このときたいていは望む結果は「山頂に登ること」だ。
ただ、よく考えて欲しい。山頂に行くためには・・・
- 1合目を通過しないといけない。
- 2合目を通過しないといけない。
- 3合目を通過しないといけない。
- 4合目を通過しないといけない。
- 5合目を通過しないといけない。
- 6合目を通過しないといけない。
- 7合目を通過しないといけない。
- 8合目を通過しないといけない。
- 9合目を通過しないといけない。
これらは全部望む結果になるかも知れないわけだ。それだけだろうか?
他には、
- 珍しい植物を見つけること
- 珍しい動物を見つけること
他には、
- 歩くことで仲間との絆を深めること
- 歩くことで自分の健康を促進すること
- 歩くことで自分の気持を晴れやかにすること
も望む結果として、あり得るだろう。だから、自己効力感も自信の一部という考えでいいと僕は解釈している。
望む結果が「1合目を通過すること」で、実際にそれが達成できると思い込めているなら、自信があるということだ。
望む結果が「珍しい植物を見つけること」で、実際にそれが達成できると思い込めているなら、自信があるということだ。
望む結果が「歩くことで自分の気持を晴れやかにすること」で、実際にそれが達成できると思い込めているなら、自信があるということだ。
ちょっと話が広がってしまったから、元に戻そう。
自己効力感は、自分の望む結果を得るために必要な行動ができるという思い込みの事だ。だから行動そのものを望む結果ととらえれば、自己効力感も自信の一部なんじゃないかと僕は解釈している。
まあ、自信と自己効力感がどう違うかを厳密に追い求めても、あんまり実生活には役に立たない。だから、ざっくりとらえておこう。
自己効力感を作る4つの要素
「じゃあ、自己効力感はどのようにできるのか?」という話だ。4つある。
自分の成功体験
僕たちが、新しい事にチャレンジするとき参考にするものがある。
それが、自分の過去の経験だ。そのときうまく行っていれば、新しいチャレンジもうまくいくと思える。逆に、過去に失敗経験が多ければ、新しいチャレンジも失敗すると思いがちだ。
例えば、僕は昔、猛勉強して成績を上げた経験がある。
だから、今でも何か試験がある場合に、試験に合格するために必要な勉強ができるという確信がある。つまり、僕は勉強に関しては自己効力感が高いということだ。
他人の成功体験
あなたが自動車免許をとったときのことを思い出してほしい。あなたは当時、あんな鉄の塊を動かせると思っていただろうか?
それまで、歩きや自転車でしか移動したことがない人間が、まさかあんな大きなマシンを操縦できるなんて!
少なくとも、僕は物おじしたのを覚えている。最初自信がなかった。
でも、よく考えてみた。自分の身の回りで、運転免許を持っている人はどれだけいるだろう?
父親、母親、祖父、祖母、おじさん、おばさん、隣の家のおじさん・・・
「あれっ?大人はほとんど全員じゃない??」
僕はその事実に気づいた。そこで自分も車が運転できると思えたのだ。まわりを観察すると、「最初できない」と思ったことも、「意外とできそう」と思えることはよくある。
人からの応援・激励
いわゆる、奮い立たせるというやつだ。
人からの応援・激励には不思議なパワーがある。
とくに信頼している人から「君ならできるよ」と言われるだけで、本当にできる気がしてくるものだ。「信頼しているこの人が言ってくれるんだから間違いない」という感じだ。
ポジティブな心理状態
最後は、ポジティブな心理状態だ。僕たちの、「できる」という感覚は、心理状態にも大きく影響している。
例えば、あなたが5人の人から事前に、感謝の言葉を伝えられたとしよう。そのとき、きっとあなたの心理状態はポジティブなはずだ。
そんなポジティブな心理状態のあなたに僕が質問したとする。
「今から初対面の人に話しかけて、10分以内に打ち解けられますか?」
きっと、あなたは「できます」と答えるだろう。
じゃあ逆に、あなたは5人の人から事前に、不平不満の言葉を伝えられたとしよう。あなたの心理状態は多少なりともモヤモヤするはずだ。
そんな状態で、さっきと同じ質問をされたらどう答えるだろうか?
「できません」と言ってしまわないだろうか?
これで心理状態も自己効力感に関係していることが、分かってもらえたと思う。
自己効力感が低いとどうなる?
問題に直面したとき「どうしよう・・・」と心配する
「どうしたら解決できるか?」ではなく、ただ「どうしよう・・・」と心配するだけだ。
というのも、自己効力感が低いと、そもそもその状態を解決しようとか解決できるとは思えなくなるからだ。
だから、未来をただ不安がり、「自分には才能がないから」とか、できない言い訳ばかりする。
結果を偏って分析する
簡単に言うと、1回か2回チャレンジして「自分にはできない。向いてない」とあきらめてしまうということだ。
仕事でもスポーツでも勉強でもそうだけど、1回か2回でうまく行くものなんてほとんどない。自転車に乗るのだって、僕たちは何回練習したことか!
だから、本当は何か一つの事を達成するまでに、何度も繰り返しの努力が必要なのは当たり前のことなわけだ。
自己効力感が低いと、その事実を無視して、偏った解釈をしてしまう。
努力を怠る
これは最大の問題だ。自己効力感が低いということは、そもそも必要な行動ができると思っていないわけだ。だから、当然やろうとしなくなる。
必要な行動をしないから、当然望む結果も出ない。だから、自分はダメだと思い、ますます自己効力感が低くなる。そうやって負のスパイラルに陥る。
自己効力感が高いとどうなる?
問題に直面したとき「どうしたら解決できるだろう?」と分析する
自己効力感が高い人は、問題に直面したときに理性的に解決策を導き出そうとする。それは自分が「解決策を導き出せる」と思っているからだ。
だから、くよくよ悩んだり、ずっと心配を引きずることはない。
結果を正しく分析
自己効力感が高い人は、起きた結果を十分に分析する。
要するに、「何でその結果が起きたのか?」、その原因をできるだけたくさん集めるということだ。
また中学時代のテストをイメージしてみよう。テストの点数が悪い場合、そこには色んな原因がある。
- 勉強する範囲を間違っていた
- 勉強する時間が短かった
- 勉強の仕方が悪かった
- テレビを見ながら集中せずに勉強してしまった
- まわりがうるさくて勉強できる環境じゃなかった
- ノルマを決めずにダラダラ勉強してしまった
- 自分が無能だから
こうやって、自己効力感が高い人は、考え得る色んな原因を考える。そして、一番あてはまっていそうな原因から順番に対処していくわけだ。
自己効力感が低い人は、単純に最後の選択肢を選んでしまう。「自分が無能だから」という選択肢だ。
よく努力する
自己効力感が高い人は、望む結果を得るために必要な行動ができると思っている人だ。
そういう人は、その行動によって、望む結果が得られるということも理解している。だから、当然努力する。
そして、努力すればするほど、望む結果が得られる。それがさらに次の行動を強化する。
自己効力感がどんどん高まっていく正のスパイラルが生まれるわけだ。
まとめ
自己効力感とは、望む結果を得るために必要な行動を起こせるという思い込み(自信)のことだ。
結果が確実に得られるという思い込みではないところが注意だ。まあ、似たようなものではあるけど。
自己効力感は、行動そのものに焦点を当てている。自己効力感が高いほど、「自分は必要な行動を起こせる」という気持ちが大きいということだ。