From:堀口寿人 金沢のオフィスより
さて、今回は前回「中小企業の方へ。健康経営優良法人2020の認定基準を分かりやすく解説1」に引き続き、評価項目の内容を具体的に説明していく。
おさらいになるが、健康経営優良法人の認定基準では、「どんな項目をどれだけ満たさなければいけないか」といった情報が一か所に集約されている。
なので分かりづらい印象を受ける。そこで、この記事では「評価項目の内容」だけに絞って説明している。つまるところ評価項目の内容が一番重要だからだ。
というわけで前回に続いて今回説明する部分は、赤枠の部分になる。それでは順番に見ていこう。
保健指導の実施又は特定保健指導実施機会の提供に関する取り組み
ここでは次のどちらかを満たせばOKだ。
【基準1】保健指導の機会を提供している
労働安全衛生法に基づく一般定期健診を行った結果、問題があると判断された従業員に対して、保健指導の機会を提供していること。例えば、次のような内容が当てはまる。
- 保健指導が必要な従業員に対して、産業医や保健師による保健指導を実施する
- 保健指導が必要な従業員に対して、地域産業保健センターによる保健指導に申し込む
【基準2】特定保健指導の受診を促している
保険者による特定保健指導の実施を促すため、必要な取り組みを行っていること。例えば次のようなことが該当する。
- 特定保健指導を受診している時間を出勤時間と認める
- 特定保健指導を受診するための特別休暇を与える
- 特定保健指導を受診するために勤務シフトを調整する
- 特定保健指導を実施するために必要な場所を提供する
NG例
どちらの基準においても、次の場合はNGとなるので注意。
- 会社が関与していない(従業員が勝手に行っている)
- 本人以外が指導を受け、その人が本人に内容を伝えている
- 正規の法律に基づいていない健診による保健指導
食生活の改善に向けた取り組み
ここでは、従業員の健康の問題を加味して、従業員の食生活の改善に向けた取り組みを行っていることが評価基準となる。
OK例
- 従業員に健康に配慮した仕出し弁当を勧めている
- 社員食堂で健康メニューを提供している
- 自動販売機で健康に配慮した飲み物を提供している
- 社員食堂のメニューに栄養素やカロリーを表示している
- 朝食を食べてこない従業員へ健康に配慮した朝食を提供している
NG例
- 「健康増進・過重労働防止に向けた具体的目標(計画)の設定」で立てた目標に合致しないもの
- 食に関するセミナーを実施している→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価されるため
- 五大栄養素に関するポスターを掲示する→単なる情報提供にとどまるため
運動機会の増進に向けた取り組み
ここでは、従業員の健康問題に基づいて、継続的な運動の機会を作っていることが評価基準となる。
OK例
- 徒歩や自転車で通勤できる環境を整備する
- 階段利用を推奨する運動を実施
- ラジオ体操、ストレッチ、体力測定の実施などのイベントを実施する
- 心身の健康意識を高めるためにヘルスツーリズムを実施する
- 官公庁や自治体が実施する運動イベントに参加する(例、スポーツ庁の「FUN+WALK PROJECT」)
- 運動施設の利用料の一部を会社が負担する
NG例
- 「健康増進・過重労働防止に向けた具体的目標(計画)の設定」で立てた目標に合致しないもの
- 運動に関する研修を実施する→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価されるため
- 血圧測定、体重測定→直接運動に結びつかないため
女性の健康保持・増進に向けた取り組み
ここでは、女性従業員の健康保持・増進のために何かしら取り組みを行っていることが評価基準となる。
ポイントとしては、女性特有の健康課題を解決するものでなくてはならない。
また常時、従業員が50人以上、または女性従業員が30人以上働いている職場では、従業員が寝ることができる環境を作らなければいけない。その際に、男性用と女性用を区別しなければいけないことになっている(労働安全衛生規則 第618条)。
OK例
- 婦人科健診・検診を受けやすいよう環境を整備する
- 女性の産業医や婦人科医を配置する
- 妊娠中の従業員に対する業務上の配慮を社内規定へ盛り込んで、周知する
- 生理休暇を取りやすい環境をつくる
- 女性専用の休憩室を設置する
- 女性の健康課題について理解を深めるための研修を実施する(「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」の評価とは別)
NG例
- 従業員だけで取り組んでいる→取り組みに会社が直接関与していない
- 相談窓口があるが、女性の健康問題に対応できることを明示していない
従業員の感染症予防に向けた取り組み
ここでは、従業員の感染症を予防するために、何かしら取り組みをしていることが評価基準となる。
OK例
- 予防接種にかかる時間を出勤時間とみなす
- 予防接種に必要な場所を提供する
- 風しんやインフルエンザなどの予防接種にかかる費用を一部負担する
- 健康診断の時に、一緒に麻しん・風しんなどの感染症抗体検査を実施する
- 感染者を欠勤させ、その時間を特別休暇にする制度をつくる
- 全ての事業場で、アルコール消毒液を設置し、マスクを配る
NG例
- 感染症予防に関する研修を行う→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価されるため
- 海外出張者にのみ予防接種機会を提供する→対象者を限定しているため
長時間労働者への対応に関する取り組み
ここでは、長時間労働者が発生した場合、とるべき具体的な取り組みが事前に決められているかどうかが評価基準となる。ちなみに長時間労働とは次のどちらかを意味する。
- 残業が月80時間以上
- 残業が月80時間未満でも、社内規定を超えている場合
OK例
- 長時間労働者に対し、医師による面接指導を行う
- 長時間労働者に対し、保健師による面談を行う
- 長時間労働者に対し、上司による面談を行う
- 長時間労働者に対し、業務の負荷を軽くする
- 長時間労働者に対し、労働時間を減らす
NG例
- 長時間労働の基準を、数か月の平均残業時間が80時間以上としている場合→月80時間より条件がゆるいため
- 長時間労働の基準を、月100時間以上としている場合→月80時間より条件がゆるいため
- 従業員からの申し出があった場合のみ面談を行う→申し出がないと行わないということだから
- 従業員の労働時間を把握する→直接的に問題解決につながらないから
- 高リスク者に対する注意を喚起する→直接的に問題解決につながらないから
- 長時間労働者の上司に対する面談→間接的だから
- フレックスタイム制を導入する→必ずしも長時間労働の解決につながらないから
- ストレスチェック制度の範囲内での取り組み
- 長時間労働に関する研修を実施する→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価されるため
- ノー残業デーを設定する→「適切な働き方実現に向けた取り組み」で評価されるため
- 長時間労働者が出たら産業医に丸投げする→事前に対応策が決められているとは言い難いため
- 残業を禁止にする→長時間労働者が出た場合の対応策ではないため
メンタルヘルス不調者への対応に関する取り組み
ここでは、メンタル不調者が出た場合に、とるべき具体的な対策が事前に決められているかどうかが評価基準となる。
OK例
- メンタルヘルスに関する相談ができる窓口を社内に設置していて、そのことを社内に周知している
- メンタルヘルスに関する相談ができる窓口を社外に設置していて、そのことを社内に周知している
- メンタルヘルス不調者が出たら、医療関係者に定期的に面接指導を行ってもらえるようにしている
- メンタルヘルス不調者の復職支援体制が整備されている
- 時短勤務、業務制限など、メンタルヘルス不調者が職場復帰するための配慮がある
NG例
- 相談窓口が経営者→従業員が相談しづらいため
- 相談したい人の上司が産業医と面談する体制→本人ではないため
- 相談窓口があるが、「メンタルヘルスの相談に対応できること」を明示していない場合
- ストレスチェックの結果をもとにした医師の面接指導→ストレスチェック制度の範疇であるため
- メンタルヘルスに関する研修を実施する→「管理職又は従業員に対する教育機会の設定」で評価されるため
- メンタル不調者が出るたびに産業医に丸投げする→事前に定められた対応策とはいいがたいため
受動喫煙対策に関する取り組み
ここでは、受動喫煙を防止するために何かしら取り組みが行われていることが評価基準となる。具体的には次のどちらかを満たせばOKだ。
- 屋外喫煙室を設置している
- 禁煙室を設置している(空間分煙)
このように、タバコを吸う人と吸わない人を完全に分離することが一番望ましい。
ただし、飲食店やホテルなどの場合、お客さんに喫煙者が含まれてくる。この場合、ある部屋を喫煙者が使う時もあれば、非喫煙者が使う時も出てくる。
つまり「この部屋は完全に禁煙室にしよう」ということが難しい場合もある。この場合、喫煙可能な区域を設定して、ちゃんと換気している場合もOKとなる。
ファミレスに行くと、喫煙スペースと非喫煙スペースが分かれている。あれをイメージすると分かりやすい。
NG例
- 受動喫煙防止のための環境整備がなされていない事業場が一つでもある場合
- 非喫煙スペースに煙が漏れないようになっていない場合
- 喫煙スペースが倉庫→倉庫は非喫煙者も使う可能性があるから
(求めに応じて)40歳以上の従業員の健康診断のデータの提供
ここで、次のいずれかを満たせばOKだ。
- 保険者に対し、40歳以上の従業員の健康診断データを提供している
- 保険者からの求めに応じ、40歳以上の従業員の健康診断データを提供する意思表示を、保険者に対して行っている
全部のまとめ
全部の評価項目を振り返ってみて、次のようなことが共通しているだろう。
- 従業員の健康に対する取り組みを会社主導で行っていること
- その取り組みは、他の法令で決められた取り組み以外のものであること
- その取り組みによる受益者を特定していないこと
要するに「全従業員の健康のために、会社側の意思で積極的に何かやって下さいね」ということだ。
社長の意識レベルで言うと、大きく次の3つに分けられるだろう。
レベル1:法律で決まっていることもやりたくない
レベル2:法律で決まっていることだけはやらなきゃ
レベル3:法律で決まっていることはもちろん、それ以外にも必要なことには率先して投資しよう
多いのはレベル2の意識の社長だ。ただ、健康経営の認定ではレベル3の意識が求められる。
そういった意識で認定に取り組めば、御社も難なく健康経営の認定を取れるだろう。