From:堀口寿人 金沢のオフィスより
はっきり言おう。
おそらく戦後で今ほど人手不足な時代は他になかっただろう。
あなたも自社が人手不足で悩んでいるかもしれないが、ご存知の通り、あなたのまわりの会社もみんなそうなのだ。
そこで、今回は、なぜこれほどまでに今の社会は人手不足になっているのか?そして、どうしたら人手不足を解消できるのかを解説していく。
もちろん、私の憶測では何の説得力もないから、ちゃんと統計を引き合いに出してお話ししていきたいと思う。きっとあなたにも納得してもらえるだろう。
1.人口動態の変化
これはとても有名な話なので、おそらくあなたもすでに知っていることかもしれない。ただ、もし知っていたとしても復習の意味を込めて、改めて内容を確認して欲しい。
これは人口の推移を示したグラフだ。全体の人口としては、2010年をピークに、徐々に減ってきているのが分かる。このブログを書いている2019年9月時点でまだ人口は1億2千万人以上いるが、それも時間の問題だ。
それでもっと大事なことがある。それは、生産年齢人口がみるみる減っていることだ。生産年齢人口は、グラフのちょうピンク色の部分で15~64歳の働ける人たちのことだ。
来年2020年になるが、2010年からの10年で全体の人口は400万人くらい減った。これも大きな数字だが、実は生産年齢人口はこの10年で800万人も減っているのだ。「そりゃ人手不足にもなるわ・・」とも言いたくなる。
そして重要なポイントがもう一つ。全人口もさることながら、生産年齢人口が今後加速度的に減っていくことが予想されることだ。つまり「今は人手不足だけど、待ってりゃそのうち何とかなるわ」とのんきなことを言っていられないわけだ。
全体として生産年齢人口の人たちが減っていることは分かった。でも、100%全ての企業が人手不足で悩んでいるわけではないのは、あなたのご想像通りだ。じゃあ、生産年齢人口の人たちはどこに集まっているのだろうか?
2.求職者はどこに集まっているのか?
2-1.規模別の求人倍率
下のグラフは、従業員規模別の大学新卒の求人倍率の推移を示したものだ。ちなみに、中途採用は加味されていない。
これを見ると、300人というラインで、人手不足状況がパックリと分かれているのが分かる。
従業員が300人以上いる企業では、だいたい求人倍率は1倍程度。つまり、10社がそれぞれ1人ずつ人手を募集したら、それぞれちょうど1人ずつ獲得できる計算だ。
これが、従業員が300人以下の企業になると話は全く違ってくる。求人倍率は約9倍。1人を9社が取り合っている状況だ。完全に売り手市場なわけだ。
2-2.産業別の求人倍率
次に、どの産業に人手が集まりやすいのかも見てみよう。
これを見る限り、金融業やサービス・情報業では比較的人が集まりやすいようだ。逆に流通業や建設業はかなり人手不足になりやすい状況と言える。
次に、「なぜあなたの会社から人手が出て行ってしまうのか?」を探っていきたいと思う。
3.人手が出ていく理由
3-1.厚労省の離職理由調査
下のグラフは、全国の企業を対象に厚労省が離職者の離職理由を調査したものだ。
見れば、どれもドングリの背比べのようだが、「その他の個人的理由」だけが突出している。おそらく、この中には離職者の色んな思いが詰まっているのだろう。でも、この統計からは何も見えてこない。
ただ一つ分かるのは、「やむを得ず辞める」ことより「辞めたくて辞める」ことの方が圧倒的に多いということだけだ。そういうわけで、もう一つ別の統計を参照したいと思う。
3-2.エン転職の離職理由調査
次のグラフは、エン転職に登録している8600人に対して、退職を考え始めたきっかけを尋ねた結果を示している。
おそらく、厚労省の調査項目の「その他の個人的理由」の詳細な情報がここにあると思われる。
この調査の「結婚・家庭の事情」は厚労省調査の「結婚」「出産・育児」「介護・看護」あたりに該当するのだろう。いずれにしても、全体から見た割合が小さいことは一致している。
項目に引いた赤と青の下線は私が独断でつけたものだ。
- 赤色:どちらかと言うと本人の考え方の問題
- 青色:どちらかと言うと企業側の問題
会社を辞めた原因が、離職者本人にも企業にも同じくらいあると思われる項目には、赤と青の両方の線を引いた。
何でこんな線を引いたかというと、割と多くの理由が離職者本人の考え方の問題であることをあなたに伝えたかったからだ。
「給与が低い」「拘束時間が長い」などの、会社側の都合はどうしようもない。「じゃあ変えます」と言ってパッと変えられるものでもないだろう。会社が悪いとも言えない。
でも、そういったどうしようもない会社側の都合とは関係なく、本人の考え方ひとつで「この仕事はダメ」と判断し辞めていっているケースが多いわけだ。
もちろん当の本人はそんなことに気づかないだろう。仕事を辞める本人からすれば「全て会社が悪い」と思っているはずだから。
3-3.離職理由まとめ
離職理由をまとめると、やむを得ない理由と言うより、離職者の個人的な思いで辞めるケースが圧倒的に多いということだ。つまり、本人が辞めたいから辞めることが多いということだ。
その背景には強いストレスを感じていたことは簡単に予想できる。でも、そのストレスは
- 会社側の問題が強く関係しているケース
- 離職者本人の考え方の問題が強く関係しているケース
の両方の問題が考えられる。会社側の問題について言えば、さらに次の2つに分類できるだろう。
- 客観的に見て誰もが問題だと思う会社側の悪習慣
- 客観的に見て中立的な事実だが、離職者本人がイヤだと思うこと
1番については、是が非でも改善すべきだ。ただ2番は、会社側に問題があると言うより、本人のとらえ方に問題があると言うべきだろう。
要するに、離職者本人の考え方にアプローチすることができれば、離職を食い止められる可能性は大きいということだ。
じゃあ、どんな企業に人手が集まってくるのか?次にその辺を見ていこう。
4.人手が集まる企業とは?
これに関しては、経産省が行った調査統計が役立つだろう。
4-1.就職したい企業とは?
これは就職生とその親に、「どんな企業に就職したいか(させたいか)」を聞いたものだ。
ご覧のように、大学生本人と親とではいくらかバラツキがある。ただ、「従業員の健康や働き方に配慮している」という点では、どちらも重視していることが分かる。
もう一つ、これは就職生とその親に「自分(子供)が働く環境に望むもの」を聞いたものが次のグラフだ。
- 心身の健康を保ちながら働ける
- 職場内の人間関係が良好だ
- 仕事にやりがいを感じられる
大学生本人においても親においても、この3つが、他よりも明らかに高い。この3つに共通するものとしては「ポジティブなメンタルで働きたい」ということになるだろう。精神的な充実感を何よりも重視しているのが分かる。
4-2.新卒者は親の声をどれくらい重視するか?
さらに、新卒者が親の声をどれくらい重視するかを聞いたものが次だ。
参考にすると答えている者が約7割という結果になっている。つまり、大体の新卒者が親の声を参考にしているわけだ。
4-3.新卒者に選ばれる企業とは?
つまり、ここまでをまとめると・・・・
- 新卒者もその親も、心身が健康で働ける企業を望む傾向があるということ
- 特に、精神的に充実して働ける環境を望んでいること
- 新卒者は就職する際ある程度親の意見を参考にしていること
となるだろう。さて、いよいよ大詰めだ。これまでの情報をふまえて、人手不足を解消するにはどうしたらいいか考察してみよう。
5.人手不足を解消するには?
5-1.出ていく人手を減らす
当然だが、まずは出ていく人手を減らすことだ。そのためにできることは、次の2つだ。
5-1-1.御社の問題を解決する
上でもお話ししたように、離職理由には、どうしようもない企業側の問題もある。
例えば、御社に入社すると年400万円もらえるとしよう。そんな中「自分は年600万円欲しいんだ」という従業員がいたとしても、「じゃああなたの年収を上げましょう」というわけにはいかない。それにこの問題は御社のせいじゃない。
こんな感じで、御社に否はなくても、それを悪くとらえる従業員は絶対にいる。これはどうしようもない。
ただ、明らかに客観的に見て御社に否がある場合は、それを何とかしなければいけない。
例えば、ハラスメントで苦しんでいる従業員がいたとしよう。それなのに「その従業員の心が弱いだけだ」とバッサリ切ってしまったら御社に否があることになるだろう。明らかに御社に否がある問題は、御社が解決しなければいけない。
5-1-2.従業員の声に耳を傾ける
そしてもう一つはこれ。離職理由を思い出して欲しい。ほとんどが、個人的な理由だった。つまり、辞めたいから辞めているのだ。
そこには、そこにはたいてい御社に対する誤解や、誤解から来る不満が含まれている。
そういったものは、事前に、御社が従業員とコミュニケーションをとっていれば解決できるものも多いだろう。
コミュニケーションが少ないとどうしても人は悪く考えがちだ。「会社は自分をないがしろにしている」「会社は自分のことなんてどうでもいいんだ」のように。実際そうでなくても、そう伝わってしまうのだ。あなたもご経験があるだろう。
逆にちょっと気をかけてあげるだけで、人は満足するものだ。それに、無駄な誤解も解くことができる。
そうやって従業員と定期的にコミュニケーションをとってあげられれば、不満は0にならないまでも、辞める人は減るだろう。
5-2.入ってくる人手を増やす
今度は御社に入ってくる人手を増やさなければいけない。そのためには、入ってきたくなる要素をPRすることが必要だろう。じゃあ「入ってきたくなる要素」とは?
それは、さっき挙げたような項目だ。つまり・・
- 心身の健康を保ちながら働ける
- 職場内の人間関係が良好だ
- 仕事にやりがいを感じられる
をPRできるといい。でもPRするには、実際に御社の職場環境がそうなってないといけない。
つまり、「従業員がメンタル的にみんな健康でいきいき働いていること」が重要だ。
そのために、できることはたくさんある。
例えば、「御社の中に誰か相談担当の人を作って、全従業員の相談にのる」のも一つだ。それが大変なら、僕のような外部のメンタルの専門家を雇うのも一つだろう。
いずれにしても、まずは厚労省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」を参考にされるといいと思う。
そうやって、今いる従業員のメンタルがいきいき健康になれば、それだけで御社には十分なメリットがある。職場環境は活性化するだろうし、人間関係も改善するだろうし、労働生産性も上がるだろう。さらに、それ自体が人材確保のPRの材料にもなるわけだ。
できれば、健康経営優良法人などの認定を受けるとより説得力が増すのでおすすめだ。
6.人手不足解決のまとめ
離職率を下げるにしても、入職率を上げるにしても、いずれにしても、従業員のメンタルに配慮することはとても重要な意味を持つと言えるだろう。
これも突き詰めれば当然のことだ。
と言うのも、人の体は心によって動かされているわけだし、幸も不幸も心で感じているからだ。体がいくら楽でも心が苦しんでいれば意味がない。
そんなわけで人材不足を解決しようと思った場合、今すぐできるところから従業員のメンタル対策に取り組んでいただくことをおススメする。
何でもいい。できることはたくさんあるはずだ。間違っても、「法律で決まっているから」という理由で形だけのメンタル対策にならないように。それだと全く意味がないから。本当に従業員のメンタルが健康になるようなことに取り組んでいただけたら幸いだ。